玄関の前で部屋番号を確認してから、インターホンを押す。
「はーい」
廊下をパタパタと歩く音が近付いてきて、玄関のドアが半分ほど開く。
片腕に小さな男の子を抱いて出てきたのは、三十歳前後とおぼしき女性で。彼女は俺を見た瞬間、驚いたように目を見開いた。
「わあ……」
感嘆の声を漏らした彼女が、俺の手元のブーケに気付いてぱぁーっと笑顔になる。あまりに嬉しそうな彼女の反応に、なぜか俺の胸が騒いだ。
髪を無造作に後ろでひとまとめにし、シンプルなTシャツに細身の黒のパンツというラフな格好をしている彼女は、ほとんど化粧っ気がない。特別美人というわけでもないけれど、笑顔が綺麗で不思議と目を惹く人だ。
「佐藤菜々様で、お間違いないでしょうか」
ピンクのブーケに目を奪われている彼女に送り状を見せると、視線をあげた彼女がわずかに目を細めた。
「ああ、すみません。間違いないです。サプライズでこんなことされたの初めてだから、驚いちゃって」
唇の端を引き上げた佐藤菜々が、溢れ出してくる喜びを抑えきれないといったふうに、ふふっと笑った。不思議そうな顔の俺を見て、彼女がまたふふっと笑う。
「これ、主人からで。実は今日、私の誕生日なんです」
幸せそうに笑う彼女の言葉が、俺の胸をチクリと刺した。