「それ、なつかしいな」

 指差して笑う俺に、「そうでしょう」と、ふふっと妻も笑い返してくる。

 妻が何の気まぐれでネックレスを出してきたのかはわからないが、それは俺にとって特別に思い入れのあるものだ。

 妻の首元で揺れる、ピンクゴールドの小さなハートのモチーフがついたネックレス。これがなければ、妻との今はなかったかもしれない。

 もう十年くらい昔。配達のバイトの途中でうっかり落としたネックレスが、離れかけていた俺と妻の未来を繋げてくれた。

 そういえばあのとき、落としたネックレスを俺に届けてくれた女性が、誕生日に夫から花束をプレゼントされていて。幸せそうな彼女のことを少しだけ羨んだっけ。

 あれから時は過ぎ……。妻の誕生日に花を贈っている今の俺は、同じ世界の誰かに羨まれるような、幸せなやつになれているだろうか。

「お誕生日おめでとう、菜々」
「ありがとう、洸希」

 今の俺のそばには微笑む妻と、彼女によく似た可愛い息子がいて。毎日が、優しい幸せで満たされている。

fin.