「ただいまー」
家に帰ると、玄関に花が飾られていた。
今日は妻の30歳の誕生日。いつもそばにいてくれる彼女に、感謝の気持ちを込めて送った花束だ。
「ぱっぱあ」
リビングのドアを開けると、もうすぐ二歳になる息子が両手を広げてテトテトと出迎えてくれる。
「ただいま〜」
妻似の息子をぎゅうーっと力いっぱい抱きしめると、ジタバタと少し嫌がられる。その反応が可愛くてにやけていると、キッチンから妻が出てきた。
「おかえり。もうすぐごはんできるよ」
キッチンからは、肉の焼けるいい匂いが漂ってくる。夕飯はたぶん、息子の好きなハンバーグだ。
「うん。ケーキ、買ってきた」
駅の近くにある妻の好きな店で買った誕生日ケーキ。その箱を手渡すと、彼女が嬉しそうに口元を綻ばせた。
「ありがとう。あとお花も。びっくりしちゃった」
嬉しそうな妻の言葉に、今さらながら少し照れる。
「誕生日なのに、今年はどこにも食べに連れて行けなかったからさ……」
「そんなの気にしなくていいのに。でも、嬉しかったよ。あなたに届けてもらえて」
妻の言い方には、なんだか妙な違和感がある。首を傾げた俺は、妻の首元に光るものに気が付いた。
妻がつけていたのは、学生時代に俺がプレゼントしたネックレス。付き合っているときも結婚してからも、妻はそれを肌身離さずつけてくれていた。
二年前に息子が産まれてからは「引っ張られて千切れちゃいそうだから……」とジュエリーケースに入れていたから、つけているのを見るのはひさしぶりだ。