そうしてやってきた、菜々の20歳の誕生日。

 夕方6時に迎えに行くと約束していたのに、菜々は昼の12時前に、俺の住むマンションのエントランス前で待っていた。

「なにしてんの、こんなとこで。夕方迎えに行くって約束したよな」

 配達のバイトに向かう予定だった俺は、驚いたし、ちょっと焦ってもいた。早口でそう言うと、菜々が泣きそうな目で見つめてくる。

「ごめん。今日の約束、キャンセルしてほしい」
「え?」
「洸希、別れよう……」
「え、急に何言って……」
「最近ね、ずっと不安なんだ。離れているときや会えない時間、洸希はどこで何してるんだろうって。洸希が私を好きでいてくれてるってことはわかってるのに、あのことがあってから、洸希のことを前みたいに信じきれなくて……。洸希のことを一ミリでも疑ってしまう自分が嫌だ……」
「菜々……」

 菜々の言葉に、ショックを受ける。

 カナエに写真を撮られたあの日のことを、菜々はもう許してくれていると思っていた。

 だけど、許されたと思っていたのは俺の勘違いだったのか……?

「ごめんね、洸希。今日の夕方は、もう迎えに来なくていいよ。今までありがとう……」

 よく見ると、泣きそうに笑う菜々の首元にはいつもつけてくれていたネックレスがない。それは、彼女の手の中に握りしめられていて……。

「さよなら」の言葉とともに、俺の手のひらの上に落とされた。