「菜々」
駆け込んできた俺を見て驚いたように目を見開いた菜々は、もう泣いてはいなかった。だけど……。
「あ、洸希。ごめんね……、ラインの返事してなくて……」
そう言って笑った菜々の目は赤くなっていた。
「菜々、そんなことより、もっと言ってやることあるでしょう」
菜々の友達ふたりが、怖い顔で俺を睨んでくる。
「菜々、ごめん……。あれ、誤解だから……」
額が膝にくっつきそうなくらい腰を折り曲げて、謝り倒すと、菜々は「わかった……」と笑ってくれた。菜々は許してくれたけど、友達ふたりは彼女以上に怒っていて。「次はない」と、鬼の形相でクギを刺された。
そういうことがあったから、二ヶ月後の菜々の20歳の誕生日はちゃんとするつもりだった。
夜景の見えるレストランを調べて予約して、指輪をプレゼントするために、平日も土日も、バイトをたくさん入れてお金を貯めた。その分、菜々と会える時間は減ってしまったけど、彼女に喜んでもらいたくて頑張った。
それなのに……。俺の20歳の誕生日以降、菜々の笑顔は少しずつ減っていった。
一緒にいても、無表情だったり悲しそうな顔をするようになって。俺の話にも、愛想笑いでしか応えてくれなくなった。
菜々には笑っていてほしい。そう思っているのに、彼女の悲しい顔を見る度に、胸に少しずつ不安が募る。
それでも、彼女の20歳の誕生日にはきっと以前のような笑顔が取り戻せるはず。そう信じて、俺は日々バイトに励んだ。