謎の高笑いが過ぎ去った後。
俺たちは、ダンジョンの最奥を目指すことになった。
「とりあえず進もうか」
「そうね」
「軽!?」
まるで何事も無かったかのように進むカルマさんとすめし。
そのあと少しだけ遅れて、「そうですね」とるいちゃんも続いた。
「たぶん声の主さんは奥のほうにいるでしょうから……。探し出してぶちのめしましょう」
「オウ……、ジャパニーズ・ノウキン・ガール……」
「でも実際、私たちにはそれくらいしかできないわよ、タマ」
「まぁそうなんだけどさ」
現在。
一、そもそも退路は無い。
二、敵(仮定)がどんな存在かも分からない。
三、戦力は頼れる。
という状況だ。
「このまま出入口を探しても仕方なさそうだし。さっきの声の主がいるとしたら、最奥の可能性が高いでしょ?」
「そうね。この状況を作り出したのがあの声の主なら、彼女(暫定)を探し出して何とかしてもらうのが手っ取り早いでしょうし」
「ですね~……」
というわけで。
どんどんと先へと進む。
道中に、明らかにプロBランクとは思えないほどのモンスター群が現れていたのだが……。
「ご覧の有様に……」
「絶好調だね!」
俺のリアクションが静かなのは、もうこの光景にも慣れてきたからである。
どうやらうちのパーティ、攻撃力だけで言えばプロ冒険者の中でもトップクラスらしく。
うまくハマりさえすれば、すでにプロでも通用するという評価を、この二ヵ月の間に手にしていた。
そして激闘は繰り広げられる。
またも大部屋。
ところ狭しとモンスターの群れが襲い掛かってくる。
「タマ。ボール頂戴」
「いくぞ! ――――すめし!」
テニスボール大の魔法球を放り投げる。
すめしは振りかぶると同時、何やら俺の魔法球に魔力を流し込んでいた。
「やってみたかったのよこれ」
「へ?」
魔法ラケットと魔法球が、ばちばちと光る。
そして勢いよく、ボールは姿を変えて発射された。
「増える――――魔球ッ!」
すめしの魔力は俺の魔法球を、まるで散弾銃のように分散させる
大量のモンスターたちを、粒となった高威力の魔法球が貫いていった。
「成功ね」
「すげえことするな……」
それを見ていたカルマさんは、「いいなー!」と目を輝かせる。
「それじゃあタマ! ボクにもちょうだい! 三つ!」
「え、み、三つ? は――――、はい……!」
サッカーボール大の魔法球を、一発、二発、三発と、彼女へ放る。
飛び上がった彼女は、自身の体に魔力を流し込み。
股の間から、尻尾のようなものを作り出した。
「増える――――足ッ!」
「いや足はおかしいだろ!?」
右足、左足、中足(?)と、三発のボールを蹴り込む。
単純に破壊力が三倍の打球が、敵へと飛んで行き爆散した。
「タ、タマせんぱい! こっちにもくださ~い……!」
「るいちゃんまで……! は、はい!」
指定が無かったので、バレーボール大のものを一発。
すると彼女も魔力を身体に流し、ボールへ向けてスパイクのフォームで飛び上がった――――かと思えば、後追いで『もう一体のるいちゃん』も飛び上がってきた。
「増える――――わたし!」
「何言ってんの!?」
魔法体で同じ体積の人物をもう一体作り出していた。
むちむちが二倍だ。
むちむちむちむちである。
「だっ、だぶるスパイクです~っ!」
鏡合わせのように、左右対称のポーズをした魔法体と共にスパイクをうつるいちゃん。
着地したその顔は、前髪で隠れていても分かるくらい、赤面していた。
慣れないコトするから……。
「やったー!」
三人はハイタッチを決めてドヤ顔を向ける。
お前らは何と戦っているんだ。
――――とまあ、そんな風に。
大部屋、通路、大部屋と。
プロのBランクダンジョンを、まるで意にも介さず進んでいく我らがパーティだった。
「縦横無尽だなあ……」
「そうだね! でも、パーティがこの強さになったのは、タマのお陰だよね!」
「え、そうなんですか? 確かに俺の魔法球は、高威力ですけど……」
俺が首をかしげると、すめしは「それもあるけど」と付け加える。
「あなたの魔法球を私たちが放つというチームスタイルに出来たこと。これが大きいのよ」
「え? どういうこと?」
「上級ランクのダンジョンを、次から次へと攻略できているのは、このチームスタイルを確立させてからでしょ?」
「……うん?」
すめしの言葉で、俺はこの二ヵ月間を思い返す。
「あー、たしかに」
とにかく俺たちはこの戦闘スタイルを貫いていた。
俺がボールを三人へ提供する → それを三人が思い思いのフォームで放つ。
こと戦闘においては、この繰り返しだ。
「これが、強くなるには一番効率が良いのよね」
「わたしたちが、一番慣れているスタイルのまま、冒険者として在れますから……」
「そういうことか」
言われて俺も、不明瞭なところが繋がってきた。
俺たちは強い強くない以前に、まだ冒険者として学び始めて一年くらいの人間だ。
経験者やプロと比べ、本来ならば圧倒的に足りない部分が存在する。
知識だけではなく――――身体の動かし方だ。
「本来なら、剣を振るとか、魔法を放つとか、これまでの生活でやったことのない動きを身体にしみこませなきゃいけない」
「そう。けれど、私たちはソレをせず、これまで培ってきた技術をそのまま戦闘に活かせている」
すめしを例に挙げると。
本来、剣を振るう動きとテニスラケットを振るう動きは全くの別物だ。
フォームだけでなく、細かな足運びや筋肉の連動のさせ方。見えている視界だって違うかもしれない。
剣を強く、あるいは速く振るうという技術は、強くなるためには必須である。
けれど彼女は、これまでの技術を戦闘へと取り入れることによって――――
「強くなる階段を、すっ飛ばした……!」
「そういうこと」
剣を振るう技術は初心者でも。
テニスラケットを振るう技術は一流だ。
そしてそれは、るいちゃんだって同じ。
「カルマは最初から、サッカーのキックを戦闘に取り入れていたじゃない?
だから、私もるいも、あなたという『ボール出し係』さえいれば、階段をすっ飛ばせるんじゃないかって思ってたのよ」
「そ、そうだったんですかすめし先輩……!」
「ちなみにこのことをこれまで言わなかったのは、アナタたち二人が知っちゃうと、変に力んでしまうと思ったからよ」
「うっ!」
「図星です~……」
確かに俺もるいちゃんも、『この方法で強くなるよ!』と提示されると、『この方法で強くならなければならないのか!』と変に身構えてしまうだろう。
いつも以上に空回りしていただろうことが、ありありと想像できる。
今は既に、パーティとしてのスタイルが確立できたから、言っても良くなったってことか。
「でも……、そうですね~。
それを知らなかったおかげで、わたしもかなり自由に戦えるようになりました~……」
「そうだね。増えてたもんね」
「えへへ……。せんぱいたち見てたら、わたしも変なコトしても大丈夫かなって……」
「変な自覚はあったんだね」
良かった。常識ラインは一応あって。
「せっかくならタマも増えればいいじゃない」
「半分に切れば二つに増えるかもよ!」
「突然の狂気はやめましょうカルマさん!」
「あはは!」
「だからそこで笑うと怖いんだって!」
「楽しくおしゃべりもいいけれど、再び敵影よ」
「よーっし、また増やすぞー!」
言ってカルマさんは、走って突っ込んでいった。
俺も後に続く――――前に。
「いけないいけない。コレやっておこう」
つぶやいて俺は。
掌でダンジョン壁を触った。
魔力を同調させ、波を感じ取っていく――――
「タマせんぱい?」
「あぁうん。すぐに行くよ」
――――よし。大丈夫だ。
どうやら教官から教えてもらったことは、本当らしい。
俺は再び。
みんなの元へ走った。
戦闘は順調だった。