私、捻百舌鳥 逆示から見た月見 球太郎の評価は。
一言で表せば、『勿体ない』だった。
「位置取り、完璧。思考の方向性、完璧。視野の確保、完璧――――」
だからこそ。
「身体能力がゴミ」
「言い方ァ!?」
モンスターを退けた私は。
先ほどの戦闘で回避行動をとりまくり、そこらをごろごろと転がり回って汚れだらけになっている彼を見て、言い捨てた。
「あらごめんなさい。カルマの口のテンションがうつってしまったわ」
「人のせいにするな! あとカルマさんはそんな口調じゃねえよ!?」
「顔が近いわ。あとファッションがダサい」
「変な髪留めしてるヤツに言われたくねえけど!?」
「失礼ね」
「いやどう考えても先に失礼なこと言ったのはお前だろ!」
そうかしら。
カルマにはこういうノリのコミュニケーションで成立しているのだけれど。
「だいたい、『変な』というなら、あなたの魔法よね」
「ん? 『ボール出し』の事か?」
彼の使用する魔法は、所謂『オリジナルスキル』と言われるものだ。
「俗称では無く、正式名称が『ボール出し』になっているものね」
騎馬崎 駆馬のステータス蘭に表示されているらしい、A+ランクスキル・白い足。
これも元は、疾風蹴りという斥候職が覚える汎用技だったという。
「けれど、使い続けるうちに、違うスキルへと変化するらしい……か。
カルマさんの場合は、単純に上位版の攻撃方法ってかんじだけど」
「あなたのスキルは、全く違うスキルになっているわね」
「だな。けど、不思議と防御上昇と同じ感覚で放てるんだよ」
「そうなのね」
防御上昇は元々、術者の魔力を『強固』にして自分ないし他者に付与する魔法だ。
この、『強固』にするというところが、ボールの強固さになっているのかしらと思ったけれど……、
「不思議だよなぁ」
「……そうね」
なんだか。
彼の能天気さを見ていると、詳しく考えるのがばかばかしくなってくるわね。
というか。防御上昇という切り札を失っているにも関わらず、状況を飲み込みすぎじゃない?
「あぁまぁ。理不尽にはなれてるからなあ」
「……変なところで強いわよね」
褒めてるわけではない。
褒めてるわけではないけれど……、思わずもう一度頭を撫でたくなる健気さを感じさせる。
どうしても可愛がってあげたくなる、カルマとは違った魔性を持っている気がするわねタマは。
「まぁいいわ。
タマ、今度もボール出し、お願いね」
「え、またやるのか?」
「何よ。私には無理って言いたいの?」
「そうじゃないよ。どっちかと言うと、俺側の問題だ」
彼は言うと、にぎにぎと手を握ったり開いたりして続ける。
「今日はどうも、サイズの調整が難しくて。指関節も微妙に硬い気がしてさ」
「…………、」
魔力って普通、身体の中で調節するものじゃないの?
え? この人、手先で調整してるの?
「……馬鹿なの?」
「突然の悪口!」
「いや真っ当な意見よ。
でもまぁ、お互いの主張がぶつかってしまうことはあるわよね」
「俺の方は全く主張してないのに!?」
そうだったかしら。
「私、意外とコミュニケーション苦手なのよね」
「意外でも何でもないけど……。学園でもあんまり人と話してないだろすめし」
「あなたに言われたくないわ」
「それもそう」
ただまぁそうね。彼のいうことも一理ある。
スポーツが出来ることと、円滑にコミュニケーションが出来ることと、団体競技が出来ることは、全て別物である。
ある意味私はその極地に居た。
「言われてみれば、ダブルスも苦手だったわ」
「そうだろうなぁ」
「全部自分でやりたくなってしまうのよね」
「うんうん、そんな気はしたよ」
「何でも分かるのね、素敵よタマ」
「変な好感度の上がり方してない?」
失礼ね。
私は私を理解してくれるヒト、好きよ?
「ふぅ」
とりあえず雑談を切り上げて、私は問題点を改めて口にする。
「タマの問題点はあまりにも多いわ。
体の使い方がなってない。足が遅い。動きが悪い。力が無い。ファッションセンスが悪くてちょっとご当地袋麺みたいな匂いがする。以上よ」
「後半二つは関係なくない!? というか、袋麺みたいな匂いってなんだよ!」
「う〇かっちゃん、よ」
「じゃあイイ匂いじゃん!」
「でも戦闘中に嗅ぐとお腹空いてくるわ。食べたくなるし」
「そんな匂いをさせてるのか俺……」
「しまった。切り上がらないわね、雑談」
何だか彼とはずっと雑談に興じている気がする。
道中戦っている時間の方が長いはずなのに、圧倒的に描写が少ないというか。
「何にせよ動き方ね。
カルマはあなたの動きも評価していたみたいだけど、私はそうは思わない」
「どうしてだ?」
カルマが評価して私が評価しない理由。
それは、互いがプレイしていたスポーツにも起因しているだろう。
「サッカーはチームプレー。いくら身体能力が低くても、『ここにいてほしい』という場所に陣取ってくれれば、評価は大きく変わる」
「ポジショニングってやつだな。確かカルマさんも、そこを褒めてくれたっけ」
その部分は私も疑っていない。
タマはすでに、何度かカルマと共にダンジョンへ潜ったみたいだけれど。
彼女に攻撃が集中し、タマが様子を伺えるのも、このポジショニングがしっかりしているからだ。
「けれど私はテニス出身。それも、ダブルスはほとんどしたことが無い」
「あぁなるほど……。団体競技じゃなくて、個人競技。
だから、『自分で何とかする力』を、一番に評価するわけか」
「そうね」
だからもっと、考え方を変えてもらった方がいいだろう。
「カルマに対しては、同じフィールドプレイヤーとしての、『パスを出す』という考え方でいいと思うわ。
けれど私に対しては、違う考えでいてもらった方がいいと思う」
「違う考えっていうのは?」
「それは……、その、流石に私の口からはちょっと……」
「え、卑猥なコト言おうとしてる!?」
「違うわよ!」
まったくもう。
ペースが乱れる。
彼と話していると、日ごろ気を張っている自分が居なくなる。
気を紛らわすために、楽しいことを頑張って見つけようとしているのに。
不思議と、彼といると。
勝手に楽しくなっている自分が居る。
「本当に、かっこいいわねあなたは」
「えぇ……? 突然褒めるじゃん……」
いいえ。
全然、突然じゃないわ。
だってずっと、私はあなたを評価しているもの。
理解できないものでも理解しようとする。
あなたのその、ひたむきさを。