家の近くに小さな公園がある。
滑り台とブランコだけの本当に小さな公園。
子どもの頃、よく遊んでいた記憶がある。
なぜか思い立った私は、遠回りをして帰ることにした。
パラパラと降る雨の中、その公園の前で立ち止まる。
こんな雨の中、人がいる。
傘もささずにブランコを漕いでいた。
油がないからなのか、古くて錆びてしまっているからなのか、キィーッという嫌な音がする。
「何見てるの?」
「えっ」
いきなり声をかけられて、体が震えてびっくりする。
まさか声をかけられるなんて思ってもいなかったから。
顔を上げて見ると、知らない男の子だった。
私と同じくらいの年齢の男の子。
「こっちおいでよ」
そう手招きされる。
なぜか私は何かに惹かれるように公園の中へと足を踏み入れた。
「一緒にブランコ、どう?」
「う、うん……」
制服のスカートが濡れてしまうなんてことはお構い無しにブランコに座ってしまった。
座った後に後悔するけれど、一度座ってしまったものはもう変わらない。
足で地面を蹴って、ブランコを揺らした。
「楽しいでしょ」
「……うん」
男の子はふっと笑う。
ブランコに乗るなんていつぶりだろうか。
多分、小学生以来乗っていない。
「名前なんて言うの?」
「私?」
「うん、そう」
「私の名前は桜井 杏子」
「杏子。いい名前だね。僕の名前は雨宮 奏」
「雨宮くん」
「うん」
名前がこの天気にぴったりだと思った。
「なんで雨の日に公園にいるの?」
「うーん、落ち着くからかなぁ」
雨の日の公園が落ち着くなんて変な人。
そう思う一方で、妙に納得する自分もいた。
「確かにそうかも」
誰もいない公園。
今の私にはぴったりかもしれない。
学校に行っても居場所はないし、家に帰れば家族に心配をかけないよう、何事も無かったかのように無理矢理笑顔を作らなければいけない。
誰もいないここは、とても気持ちが落ち着く気がする。
「本当?杏子にもそう思って貰えて良かった」
そこでしばらくブランコを漕ぎながら話をした。
その中で同じ高校2年生なのだと知った。
「うちの飼い犬におやつあげようとして手品みたいに隠したんだけど、おやつが無くなったことに驚いてキョロキョロしてて。それがまた可愛くてさぁ──」
「ふっ、それは見てみたいかも」
「動画撮りたかったな」
久しぶりに笑った気がした。
雨宮くんと話していると心が落ち着いてくる。
とても不思議な気持ちになった。
「雨宮くん、そろそろ私帰らないと」
「そうだよね。引き止めてごめん」
「ううん、楽しかった」
シワになったスカートをぱっぱと振り払って立ち上がる。
雨宮くんはちょっとだけ寂しそうな顔をした。
「僕、よくここに来るからまた話そうよ」
家がこの近くなのだろうか。
今まで一度も会ったことがない気がするけれど。
「うん、ありがとう」
また家に帰れば、憂鬱な時間がやってくる。
できればもう少しここに居たかったけれど、これ以上帰るのが遅くなると親に心配されてしまう。
「じゃあね、雨宮くん」
「またね、杏子」
手を振って公園を後にする。
公園を出てすぐに振り返ると、もうそこに雨宮くんはいなかった。
滑り台とブランコだけの本当に小さな公園。
子どもの頃、よく遊んでいた記憶がある。
なぜか思い立った私は、遠回りをして帰ることにした。
パラパラと降る雨の中、その公園の前で立ち止まる。
こんな雨の中、人がいる。
傘もささずにブランコを漕いでいた。
油がないからなのか、古くて錆びてしまっているからなのか、キィーッという嫌な音がする。
「何見てるの?」
「えっ」
いきなり声をかけられて、体が震えてびっくりする。
まさか声をかけられるなんて思ってもいなかったから。
顔を上げて見ると、知らない男の子だった。
私と同じくらいの年齢の男の子。
「こっちおいでよ」
そう手招きされる。
なぜか私は何かに惹かれるように公園の中へと足を踏み入れた。
「一緒にブランコ、どう?」
「う、うん……」
制服のスカートが濡れてしまうなんてことはお構い無しにブランコに座ってしまった。
座った後に後悔するけれど、一度座ってしまったものはもう変わらない。
足で地面を蹴って、ブランコを揺らした。
「楽しいでしょ」
「……うん」
男の子はふっと笑う。
ブランコに乗るなんていつぶりだろうか。
多分、小学生以来乗っていない。
「名前なんて言うの?」
「私?」
「うん、そう」
「私の名前は桜井 杏子」
「杏子。いい名前だね。僕の名前は雨宮 奏」
「雨宮くん」
「うん」
名前がこの天気にぴったりだと思った。
「なんで雨の日に公園にいるの?」
「うーん、落ち着くからかなぁ」
雨の日の公園が落ち着くなんて変な人。
そう思う一方で、妙に納得する自分もいた。
「確かにそうかも」
誰もいない公園。
今の私にはぴったりかもしれない。
学校に行っても居場所はないし、家に帰れば家族に心配をかけないよう、何事も無かったかのように無理矢理笑顔を作らなければいけない。
誰もいないここは、とても気持ちが落ち着く気がする。
「本当?杏子にもそう思って貰えて良かった」
そこでしばらくブランコを漕ぎながら話をした。
その中で同じ高校2年生なのだと知った。
「うちの飼い犬におやつあげようとして手品みたいに隠したんだけど、おやつが無くなったことに驚いてキョロキョロしてて。それがまた可愛くてさぁ──」
「ふっ、それは見てみたいかも」
「動画撮りたかったな」
久しぶりに笑った気がした。
雨宮くんと話していると心が落ち着いてくる。
とても不思議な気持ちになった。
「雨宮くん、そろそろ私帰らないと」
「そうだよね。引き止めてごめん」
「ううん、楽しかった」
シワになったスカートをぱっぱと振り払って立ち上がる。
雨宮くんはちょっとだけ寂しそうな顔をした。
「僕、よくここに来るからまた話そうよ」
家がこの近くなのだろうか。
今まで一度も会ったことがない気がするけれど。
「うん、ありがとう」
また家に帰れば、憂鬱な時間がやってくる。
できればもう少しここに居たかったけれど、これ以上帰るのが遅くなると親に心配されてしまう。
「じゃあね、雨宮くん」
「またね、杏子」
手を振って公園を後にする。
公園を出てすぐに振り返ると、もうそこに雨宮くんはいなかった。