ーー「こんな時間に何してるの?」
「え‥」
顔を上げると男の子が立っていた。男の子と言っても私よりうんと大きくて黒い髪に瞳が茶色できれいな顔をしていた。私がぼーっと見ていると

「おーい。こんな時間に何してるの?って聞いてるんだけどなあ」
「あ‥。えっと‥。」
「あーごめんね。名前も言わないと緊張するよね。俺は、翔初(しょう)。17歳だよ。」
「私は、美知(みち)‥です。12歳」
「美知ちゃんか。家に帰らないの?」
「…帰りたくない。誰もいない、から。」
「ふーん。帰らないのか。でも、こんなところに一人でいても危ないよ?俺が攫おうとしたらどうするの?」
「…。別に、攫われてもいいし。どうせ、お父さんは心配しない。」
「そっか。じゃあさ、俺についておいで。」
「…?ヤダ。」
「え〜〜。そこはついていくって頷くところじゃない?」
「お父さんが知らない人にはついていくなって言ってた。」
「さっき攫われていいって言ったじゃん。それに、君みたいな子がこれから行く場所にたくさんいるよ。」

私みたいな子?私みたいに、一人ぼっちでいる子がいるの?もう仲間はずれにならなくていいのかな?
「…。行く。」
「よし、決まりだね。」
そこに行くまでは凄い道のりだった。塀を越えて屋根に登ったり、狭い路地裏に入ったり本でしか見たことがないこの行動を自分がしているのが新鮮で楽しかった。いつもは、暗い部屋の中できらきらな光を眺めているだけだったけど今は暗い夜道でも自分があの街のようにきらきらしていると感じた。

「さあ、着いたよ。」
そこは、狭い路地裏の隅にあり後ろを振り返れば一人では帰れない先の見えない道が続いていた。もう戻ることのできないと改めて感じ高鳴る心臓の音とともに古びた重い木製の扉を開けた。
「しょう兄、おかえり〜!!」
突然たくさんの子供達が男の子を取り囲む。怖くなって男の子の後ろに隠れたら、私より小さい男の子が私の髪を掴んだ。
「なんで、かみ白いの〜?」
「ホントだ白い。」
みんなの視線が一気に集まる。また、昔のことを思い出した。
 それは、私が小学校1年生の時、授業参観で父親が来たときのこと。
「ねえ、ねえ。みちちゃんのおとうさんどれ?」
「んっとね。あれだよ!」
私が指をさすとみんなが一気に驚いた顔をした。
「えっ。あれ、おとうさん?ぜんぜんにてない〜」
「うそついてんじゃないの?」
「おかあさんもいないのに、おとうさんににてないのかわいそう。」
「しろいかみ、きもちわる〜い。」
気持ち悪いという言葉がその時から頭に染み付いて離れない、その時まで、お父さんと上手く言っていたのに確かに可哀想だなと思ってしまってそれから二度と授業参観に呼ばなくなった。学校でもそれから誰も私に近づかなくなった。異物を見るような目をして。先生がそれに気づき私を守ってくれるのだと思ったら
「美知ちゃんは家庭の事情が少しみんなと違うの。確かに、髪の色が違うけどみんな仲良くしてあげてね。」
と言った。それからみんなは突然態度が変わり、私は可哀想な子、髪の色が違う可哀想な子と言う目で私と関わってきた。それが、気持ち悪くて嫌で嫌でここに来たのにまたおんなじ目に合わないと行けないと思ったその時…。
「きれいな色じゃん。素敵な髪だよ。」
はっとすると、髪が栗色の私よりほんの少し背が高い男の子が立っていて私の頭を撫でていた。
「女の子の髪は掴んじゃ駄目だよ。美知ちゃんに謝って。」
「うん。…かみつかんでごめんね。」
「大丈夫だよ。」
「うん。よくできました。」
「しょう兄〜。頭なでて!」
「はいはい‥。」
翔初さんは子どもたちに囲まれて離れてしまった。私は、さっきの男の子がどこにいるのか探していると。
「よっ!」
「…。」
「え〜、なんで驚かないの?」
「…。」
「あ〜、ごめんごめん!俺、柚春(ゆずはる)。13歳、柚兄と呼んでくれ。」
「…美知。12歳です。」
「美知ね!よろしく。敬語じゃなくていいよ。1歳しか違わないし。」
「…うん。あのさ、さっきなんで私の髪きれいって言ったの?」
「えっ?だって、きれいじゃん。しかも、さらさらだしちゃんときれいにしているんだなあって。あ、あと瞳の色もきれいだねスカイブルー?海みたいな?なんか吸い込まれそうで〜それから。」
「あっ!もう、わかったから。あ、ありがとう。」
「そう?まあ、でもいつも言われてるんじゃない?髪きれいだねってさ。」
「…言われないよ。」
「んっ?なんて言った?」
「ううん。なんでもない。私、そろそろ帰る。お父さん流石に帰ってきそうだから。」
「あ、そしたら送っていくよ。翔初くん囲まれて動けなさそうだしね。」
ちらっと見ると子どもたちに囲まれても一人ひとりに丁寧に答えている翔初さん。そういえば、私にも子供扱いせず私に話しかけてきたなと思った。
「じゃあ、行こうか。」
柚兄に連れられて私はこの場所を後にした。