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 ゼミの先生と付き合っていると知り、私はげんなりしながらもゼミには通っていた。卒業論文は見てもらわないと困るから。
 不倫じゃないし、彼氏公認の浮気だったら、私もなにも言えないしなあ。人の趣味なんてわかったもんじゃない。
 そうげんなりした気分で部屋の戸を開けようとしたら、そのときは鍵がかかっていなかった。

「こんにちは」

 そう春海に声をかけられて……私は固まってしまった。
 量販店で売っているデニム。靴屋のセールで買ったスニーカー。どこで買ったのかもうよく覚えていないトレーナー。大きいからという理由で揃えたリュック。
 そして髪の毛をひとつに結んでいる薄化粧は、どこからどう見ても私の格好であった。双子コーデ、という奴である。

「なんで?」
「今の彼氏がこれがいいって言うから」

 そんな馬鹿な、と私は思う。
 全員ではないだろうが、男子大学生の趣味ってわかりやすい女の子だ。そのわかりやすさというのはお色気とか庇護欲とかは人それぞれだろうが、少なくとも私みたいな男か女かよくわからない格好を好きっていう人はあまりいない。
 私は心臓がバクバクした。
 春海が今付き合っている人って誰なんだろう。月イチで変わるせいで、私も今の彼氏を確認していなかった。
 もうゼミでなにをやったのかも覚えていなく、大学を出たこと以外、記憶になかった。

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 私と春海が双子コーデをしたことは、気付けば大学内でそこそこ広まってしまっていた。
 同じ学年の同じ授業を取っている子が、心配して声をかけてくる。

「大丈夫? 春海さん、あんまり評判よくないけど」
「いやあ……なんでだろうね?」
「ねえ……最近春海さん、全然彼氏と一緒にいるところ見ないけど」
「うん……」

 私は春海の行動が理解できず、ただただ困惑していた。
 そんな中、食堂で定食を頼んだものの、席が空いていないことに気付いて途方に暮れていた。
 既に買った以上はなんとしても食べたいけれど、外で食べるには定食は膝に乗せては食べられない。困って席をぐるぐると回っていたら、「よかったらここで食べる?」と声をかけられた。
 パリッとしたシャツに、変色したダメージデニム。私と似たような格好にもかかわらず、あきらかに向こうのほうが体系がよく脚も長くて様になっている。なによりも髪がスポーツモヒカンという奴か、きちんと髪をワックスでセットしているあたり私なんかよりよっぽど身だしなみに気を遣っているのを窺わせる人だった。
 彼の席はちょうどふたり用で、向かい側が空いていた。
 私は「ありがとうございます」と彼の向かい側に座ると、彼はにこやかに笑っていた。向こうが頼んだのは親子丼で、ご飯は大盛りだった。細いのにきちんと食欲は男子なんだな。
 私が割り箸を割って食べはじめた定食に「最近よく噂になってるね、双子コーデの君」と言われ、思わず箸が止まった。
 ……全く知らない男子にまで知れ渡っていたか。

「……彼女と同じゼミで、気まずくなりたくないんでその辺で」
「いやいや。春海さんはカメレオンって評判だから驚いてね。よりによって、君と双子コーデしてきたから驚いたんだよ」

 そこで私は見知らぬ男子を見た。そして春海の今までの彼氏遍歴を思い出す。
 彼女は今まで、彼氏に合わせて服も化粧も髪型すらも変えていたけれど、肝心の彼氏の顔は全く思い出せないのだ。
 それは春海の変貌振りにびっくりしたのか、それとも彼氏は彼女にとってのオブジェだったのか。
 そして見知らぬ男子はというと、よくよく見たら顔がかなり整っているのだ。こちらをちらちらと羨ましそうな顔で見つめてくる女子がいたりするくらいには、イケメンという部類だろう。
 まさかと思うけれど、彼は私のことを知っていて、私を見ていたら春海が気付いて彼に合わせて私と双子コーデになったんだろうか。
 私は定食の味噌汁をすする。
 ……今初めて会ったのだから、彼が私のことを好きというのはなしだろう。だから、このことは今度、春海に会ったら教えてあげよう。
 それから彼とは適当に話を合わせて別れた。
 あれだけ不気味に思っていた双子コーデの謎が解けたと思ってすっきりしていた……はずだった。