私が今日もゼミに向かうと、ゼミ棟の一室を開けようとしたら、鍵がかかっていた。
 どうしようと思っていたら、ガチャンガチャンと中から音が響いた。

「それじゃあまた!」
「またね」

 明らかに服が乱れた男子学生が、そのままドタドタと走って行った。私はそれを見送ってから、部屋を見る。
 そこでは服が全く乱れることなく、いかにも「私はなにも知りません」という顔をした美人がいた。
 ダークベリーの唇に、真っ黒なボブカット、レンガ色のワンピースで、全体的に昭和ロマンを思わせた。
 この間は平成レトロとばかりに、髪を金髪に伸ばして肩パット入ったワンピースを着ていたと思うし、その前はやけに露出して、髪をアップにまとめていたのに。
 同じゼミの春海は、関わる男が出るたびに、化粧も服装も体系も、ころっと変わってしまっていた。映画俳優の中には、役柄に合わせて体系も髪型もころころ変わる人はいるし、歌手の中にも出てくるたびに化粧も服も変わっているせいでほぼ別人に見える人だっているけれど、彼女はどうしてこうも変わるんだろう。
 しばらく彼女を眺めていたけれど、その内青臭いにおいが篭もっているのに気付き、顔をしかめて窓を開けた。
 インカレに出場する部の、走り込みの声が響いてくる。

「こんなところで盛るのやめたら? そのうちゼミの先生にクビにされるよ?」

 ゼミを追い出されたら卒業できないだろうにと、暗に釘を刺すものの、春海はクスクスと笑うばかりだった。彼女は時々、同い年とは思えないほど老獪な笑みを見せてくる。

「いいの。サービスだから」
「サービスって……」
「先生、寝取られ趣味があるから、見せつけたほうが盛り上がるのよ」

 唐突な告白に、私は噴き出した。
 ……このゼミに入っているというのに、今更うちの先生をどんな顔で見ろというのさ。

「……さっき出て行った子は知ってるの?」
「さあ? でもこの格好も髪型も、それに合わせた化粧も服も、全部先生の趣味なんだけど」

 春海はくつりと笑った。

「それで気付かないんだったら、本当におめでたいんだわ」

 その笑みは他の人がしたら毒々しいだろうに、彼女がしたら神々しく見えるのはなぜだろうか。