元々俺はほんとにあの当主の息子なのかと思うほど無愛想で冷たい性格をしていた。他人に関心を示さず心を許していたのは秘書であり鬼崎門家の正統なる分家に当たる氷鬼だけだった。
一族のものからも早く花嫁様を見つけなさい。と言われていた。
しかし、他人に興味がないだけでなく俺のことを見てくる人間は容姿と家の財力しか見ておらず、媚を売るのに必死だった。
花嫁を見つけたあやかしは少数で多くは一族の決めた者と結婚していたが花嫁を溺愛するあやかしを見て花嫁を見つけたらどうなるのだろうと心の奥底で思っていた。

だが他人に興味を示さない俺に見かねたのか一族のものたちはあやかしの中から婚約者を探し始めた。
「やはり婚約者様は筆頭分家の鬼隆初様が良いのでは?」
「釣り合いの取れる霊力から選ぶなら斎龍寺家の1人娘・斎龍寺美斗様も良いのでは?」などと話していた。
しかしここで一つ疑問が生まれた。斎龍寺家の娘は斎龍寺美斗以外にもう1人いると聞いていたからだ。
だが家のものに聞いても知らないというだけだった。当主である父に聞いても「自分で確かめてみなさい」と言われるだけだった。
斎龍寺の分家の者と会った時ときに聞いてみたこともあったが「そんな者はいない」と斎龍寺の者は口を揃えて嘘を吐き散らかした。なぜ嘘をついてまで隠さないといけないのか。なぜ姿を現さないのか冬夜は気になって仕方がなかった。
1人悶々と考えている冬夜に蓮夜は言った。
「いつかわかる日が来るよ。」




そしてついにその時は来た。諸星ホテルでの社交界にもう1人の令嬢がいたのだ。
その令嬢−巫世を見たとき冬夜はとてつもない喜びに襲われた。そして感じた、このものこそが花嫁だと。
だがあやかしが本能的に花嫁だと決められるのは人間だけだった。しかし冬夜にはもうそんなのどうでも良かった。
すぐさま氷鬼に指示を出し状況を説明した。蓮夜が通りすがりに「見つけたみたいだね」と言ったときに蓮夜はこうなることがわかっていたんだと悟った。綺麗な黒い髪に桃色に染まる頬、優しげな顔をしている彼女はまさに天使だった。冬夜はこんな感情に襲われるのは初めてだった。
氷鬼を斎龍寺の元へ行かせたときこっそりと様子を伺っていたがほんとに家族なのかと思うほど巫世への対応が冷たかった。もっと早くに出会えていたらと冬夜は自分を責めた。

部屋に待機している間も緊張が止まらなかった。きっと生涯で1番緊張したときになるだろう。丁寧にノックをして入って来た巫世からも緊張している気配がした。微かに震えていたが小鳥の囀りのような愛らしい声をしていた。
改めて見る彼女はとても綺麗で寒色系の着物がよく似合っていた。