――あぁ、どこかに私にふさわしい男は居ないのかしら……。
絶え間なく私の元に届く縁談話に、あの頃私はうんざりしていた。
王女という身分、恵まれた美貌、政略……。
どの男も邪な考えを持ち、醜い顔をした男共が下心をもって私に近づいてきた。
でも、グレンは違った。
グレンを初めて見た時、私はこの男と結ばれたいと渇望した。
『目』が良かった。
どこまでも透き通っていて、ただ自分の信念をどこまでも貫き通そうとするグレンが好きだった。
初めてだった。
国のどこを見渡しても彼に勝る男なんていない――まさに私にふさわしい男。
そう思うや否や、私はすぐに行動した。
国中を飛び回る彼に初めて恋文とやらを送って、父に彼に私との婚姻話を持ち込むように頼み込んだ。
縁談話を断り続けてきた私が、自分から、しかも相手は平民。
父は目を白黒させていたが、勇者とも呼ばれている彼を王族に迎え入れることに父は賛成してくれた。
☆★☆
だけど、彼の返事はNoだった。
頭の中が真っ白になった。
(私を拒否するの?)
恥をかかされたと思った。
私が、私から歩み寄ったのに、あろうことか彼は私の申し出を無下にした。
(何で? ありえない、ありえない、ありえない――ッ!)
でも、冷静になって考えれば分かる話。
私が目を付けたほどの彼に、恋人がいないはずなんかなかった。
グレンに金魚の糞のようにくっつく女――シスリー。
グレンは、私には決して見せない顔を彼女に見せていた。
(あの女のどこが言い訳? 容姿も教養も私の方がはるかに優れているじゃない!)
理解しがたい。
生まれて初めて味わった失恋の味は私には耐えがたいものがあった。
悔しい。
悔しい、悔しい悔しい悔しい悔しいッ!
手に入らないのがこんなに辛いなんて。
1週間、私は悩んだ。
グレンの事はもう忘れよう。
何度もそう思った。
だけど、忘れる――諦める何て絶対無理。
悩みぬいた末に私はある事にたどり着いた。
私とグレンとの間にある障害を取り除こう。
そのためなら、私は何だってする。
グレンの隣に居るべきなのは私しかいないのだから。
☆★☆
綿密な計画を立てた。
致命傷に至るか至らないかのギリギリの量の毒薬を予め用意して、病を偽装した。
そして、シスリーに診療させ、彼女が治療用に処方した薬草に混ぜて、罪を着せて、地下牢に入れた。
二人の仲を裂くために。
グレンは激しく抗議してきたが、強気な彼の行動の中に、私には彼の心が確実に弱ってきているのが目に見えて分かった。
コレでいい。
私は完全に二人の関係に終止符を打つべく、彼女を手にかけて、グレンが私を無視できないように策を講じた。