片手を失った勇者は勇者と呼べない。

一介の兵士に成り下がった。

それなのに、勇者はソレを認めず、意地を張り続け「勇者」だと詐称するから、村の皆は自分も含めて騙された、と。

結果は、このザマ。

村は跡形もなく焼き尽くされ、家族は皆死に、自分だけ生きている。

「全部、アンタのせいだ! アンタが村を滅ぼしたんだ! アンタを詐欺師と言わずして、何と呼べばいいの! この嘘つき!」

真っ赤に目を腫らして、八つ当たりであることは心のどこかで分かっていても、哀しみが絶望が、本来魔物へ向けられるべき怒りが、勇者へと向けられた。

「………俺のせい……。俺は……一体何のために………、なんの……ため?」

別に見返り何て求めていなかった。

偶々、自分が『力』を持っていて、弱者を救いたい一心で行動した先の果てが、恋人一人すら守れず、目の前の少女も救えない。

(………もう……限界だ……)

ただ、じっと彼女の罵倒にじっと耐えていただけの勇者は亡者のように、フラフラとおぼつかない足どりで診療所を出て行った。

目の焦点は定まっておらず、よろめいて何処かへ行ってしまった。

そして――それ以降ばったりと、勇者の行方は分からなくなった。


☆★☆

勇者が失踪して、早半年。

勇者という切り札を失った人々はいよいよ、魔物の侵攻に歯止めがかからなくなり、一時は王都を除いてほぼ国の全域が奪われ、滅亡まで秒読みの段階に入ろうとしていた。

だが、この絶望の状況の中、奇跡とも呼べるタイミングで『魔道具』という革新的な発明が為された。

これは勇者ではない一般人でも魔物並みの武力を手にすることを可能にして、息を吹き返した国防軍は、初めて勇者が居なくとも、魔物に対し、優位に立った。

後、少しで完全に魔物の息の根を止めることが出来る。
再び、魔物に怯えることのない平和な国を築ける。
――そして、そのためには何が足りないのか。何をするべきなのか。

国王には分かっていた。

『勇者』

行方不明とはいえ、依然として人々から高い支持を得ている勇者。

勇者が先導してくれれば、士気も必然的に上がり、この戦に終止符が打てる。

国王は勇者捜索に乗り出すことを宣言した。