国の最北端、極寒の地。

至る所に魔物が幅を利かせて生息し、人など到底住める場所ではない辺境。

勇者はその地に小屋を建て、世俗を絶っていた。

暖炉もない凍えるような冷気に包まれた小屋だったが、寒さを感じていないのか、揺りかご椅子を漕いで、窓から見える外の景色をぼんやりと眺めることに、一日の大半を過ごしていた。

勇者の頭の中には、魔物討伐のことも、城での出来事も何もない。

思考の放棄。

魔物討伐、城での事、カレン……。

全てが勇者を追い詰めた結果、そうなり、人里離れた秘境に身を置いていた。

☆★☆

そんな日々をしばらく送っていたある日。

いつものように外の景色を眺めて、うつらうつら夢の世界に入りかけそうになったその時。

ドンドン………ドンドンドンッ!!

びゅうびゅうという猛吹雪に負けないぐらいに、扉をけたましく叩く音が。

(またか……)

魔物が小屋にある食べ物を求めて、襲撃することは珍しくなかった。

その度に返り討ちにしてきたので、ここ最近は襲撃もめっきり減ってきていたのだが……。

剣を握り、今にも破壊されそうな木扉をバンっと開けて、勢いのまま外敵に剣を振りかざした。

「——ヒッ!」
 
だが、あとほんの数センチというところで気がついた。

魔物だと思い込んでいたが、人である事に。

頭に雪を積らせ、鼻からカチコチに凍った鼻水をつけた武装した中年の兵士。
慌てて剣を下ろし、勇者は謝罪をした。

そして、どうしてこんなところまで来たのか。

疑問を口にしたが、寒さで体をガタガタ振るわせるのを見て、質問は後だと思いとどまり、中に入れた。

☆★☆

温かいお茶を一気に飲み干した中年の兵士。

身体が温まってくると、勇者に感謝の意を述べ、額を床につけて、

――自分は王の命を受けてココに来た。迫りくる魔物の脅威を退けるべく、今一度国の為に力を貸してほしいと。