人に愛されるのは、怖いことだ。
人を愛すことは、もっと怖いことだ。
それなのに、どうして人は愛し合わずにはいられないんだろうか。
アニメもドラマも映画も小説も、現実でさえも。
周りは、惚れた腫れたばかりだ。
好きですとか、愛してるとかそんな言葉でどのくらいの気持ちが詰まっているんだろうか。
人を愛するなんて―。

「私はあなただけを愛してるのよ」

吐き気がする。

「えーだってお前さぁ」

「ねえねえ今日終わったらデートしよ!」

入学して初日から騒ぎ出す連中ども。
別にこいつらがどんな生活を送ろうがボクには関係ない。
だって、ボクは人を好きになったりなんてしないから。

「え、あの人イケメンだよね〜!」

「わかる!仲良くなりたい!!」

ボクはわかっている。自分が女子に好かれやすい容姿をしていることも、自分が今、彼女たちに手を振ればどういう反応が返ってくるのかということも。それをわかった上で、ボクは笑みを作りながら彼女たちに手を振る。

「きゃー、手振ってくれた!」

「笑顔かわいいっ」

やっぱり予想通りだ。簡単にボクを気に入ってくれる。世界はそういう仕組みで動いてるんだ。

「次の休み時間話しかけに行こ!」

「絶対!!」

そっか、次の休み時間はボクのところに来るのか。めんどくさ…。そうは思うけど近づいてきてくれるのは都合がいい。中学からの付き合いの女子は大概違う高校に行ってしまったから新しい子が欲しかったんだ。

「ま、間に合ったぁ!」

隣の席にどさっとカバンが置かれる音がする。ボクは、目線をそちらへ向ける。そういえば、隣の席も女子だったっけ。

「あ、おはよう」

彼女はごく普通にボクに挨拶をした。ボクは、顔面に食いつかない女子なんて珍しいと思いながら笑顔を作る。

「おはよ」

きっと近すぎたから緊張してるだけだよな。内心はきっとさっきの女子たちと何ら変わらないはずだ。

「さくら、綺麗だね」

彼女はそう言って、ボクにほほ笑みかける。さくら…?なんだその話題のチョイス。もっと聞きたいことないのかよ、ほとんど初対面だぞ?

「そ、そーだな」

ボクは同意しながら窓に目を向ける。桜が鮮やかに咲き誇っていた。貴女と一緒に見れたならもっと綺麗だと思えたんでしょうね。

「それじゃ」

彼女はそれだけ言ってほかの女子の元へ行く。なんだったんだ?あんな女は初めてだった。