ドアをパタリと閉め、背伸びをする。


「とりあえず飯食いに行くか」


腹減ったしな。
パチンッ、と指を鳴らし繁華街の路地裏に《転移》する。


ぶっちゃけ心の中でイメージして唱えるだけで発動出来る魔法だが、前世でも転移する時には必ず指パッチンをしていた。


だってその方がかっこいいじゃん。


《転移》は一度訪れた場所になら瞬時に訪れる事の出来る生活魔法だ。


「そうだよな? レシェ」


誰も居ない路地裏で問いかける。


『はぁ……《賢者》でもひと握りしか扱えない超級魔法、いえこの世界では古代魔法とまでされている魔法を生活魔法扱いですか。マスター? 』


脳内から返事が帰ってくる。


凄く萌え声なこいつの正体はナビゲーターのレシェール・アドバイス。


因みに前世からの付き合いだ。


前世で一番仲が良かった、錬金術師の相渡琉 小拓 (あいどる おたく)が俺の誕生日にプレゼントしてくれた大切なナビゲーター兼友達だ。


わざわざ寂しくないようにって自我を芽生えさせ、萌え声にまでしてくれた。なんでも大好きなアニメのヒロインの妹の声らしい。


萌え声はあいつの趣味だが、可愛いから俺も大助かりしてる。


『ってそんなのはどうでもいいですよ! なんなんですか何年も呼び起こさないで……しかも発言OFFにまでして』


ど、どうしよう。お怒りでいらっしゃる。


ここは正直に言うべきか誤魔化すべきか。 ええい! 怒られたくないし誤魔化そう!


『マスター、 お忘れですか? 私はマスターのナビゲーターですよ? 今マスターが考えていることは全てダイレクトに伝わってきてますよ』


ひいい!?


『そうですか、そうですか。マスターと私は一心同体、隠し事などしないと思っていたのですが、どうやらこの場を誤魔化したいようですね』

「いや、あの、だから! 」

『……寂しかった』

「え? 」

『寂しかったです。不安だったです。マスターは私が嫌いになっちゃったのかと』


嫌いになんてなるわけないじゃねえかよ……。


『じゃあさ? 証拠……みせて? 』


そう言うと目の前が光に包まれ、一人の少女が姿を見せる。


薄緑のツインテールに人並みより少し膨らんだ胸に小さなリボンがちょこんと付いている。


そしてなにより幼い顔つきが超可愛い。


うんうん……っ、え!?


「お、お前《擬人化》出来たのかっ!? 」

『えへっ♪ オタクさんが付けててくれたんです。マスターと触れ合いたいって気持ちが膨れ上がって爆発しそうになったとき、その想いを込めながらスキルを発動させたら《擬人化》出来るはずだって』


……なんであいつはなんでそんな重要な事を教えてくれなかったんだ。


『そのほうがルード殿も喜ぶでござろう、まぁ拙者がそういうシチュエーションが好きでござるからな、デュフフフ。と申してました』


はぁ……あいつらしいや。変な笑い声を上げながらメガネをクイクイッと上にあげる動作まで浮かんでくる。


あいつ元気にやってるかな? 彼氏欲しいってずっと嘆いてたけど彼氏は出来たんだろうか。


そういえば好きな奴が居るって再三口にこぼしてたな。


拙者、どタイプの男が居るでござるが何せ鈍感でござってな、勇気を出して何回もデートに誘ったり、プレゼントを渡したりしてるでござるが一切好意に気づいて貰えなくて……とほほ、泣きそうでござるよ。 なんて言ってた様な。


あいつは、レシェを作って更には《擬人化》まで組み込める天才錬金術師なのだが恋は一筋縄で行かないみたいだった。


あんな最高級のプレゼントくれたら誰だってイチコロだと思うのだが、気難しい人もいるもんだ。


『はぁぁぁ……これを無自覚に発言してるのですからこまったものですよ、ほんとに』


はて? 無自覚とは? まぁ、それはいい。


「証拠って何をすればいいんだ? 」

『……スがいいなぁ』

「なんて? 」

『キスがいいなって言ったの!! 』

「そ、そうか。そんなことで良いならいくらでもしてあげれるぞ? 」


そう言うとレシェを抱き寄せ、顎に手をやり顔を上に向かせ、綺麗なその唇に俺の唇を重ねる。


「んんっ……!? 」


ものの数秒そうしていると、ばっ!とレシェが離れる。


「そんないきなり……マスターって大胆だったんですね。そんなところも好きですが♡ 」


顔を真っ赤にしながらもじもじとしている。


「いきなりって、お前がキスしろって言ったんだろ」

「乙女には心の準備ってのがあるんですよ!! 強引にされるのも好きになっちゃいましたけどね」

よく分からんがこれからは少し待つようにしよう。


「では行きましょうか、マスター♡ 心の傷も全部癒してあげますからねっ! 」

「おう、飯食い行くぞ! 飯! 」


心の傷なんて追ってないやい。


「ふふっ、そういうことにしておきます」


俺の右腕にピトッと抱きついたレシェと共に路地裏を後にしたのであった。