マンガを読み終えて数分ごろごろした後、親父の書室へと向かった。

「ういーす」

「やっときたか無能……いやルードよ。部屋に入る時はノックをしろとあれほど言ったはずなんだがな」

「誰が無能だって? ここまで有能で天才な息子はバムール家で俺だけだろ? 」


そう言うと溜め息をつきながら頭を抱える親父。

今日だけで二人に溜め息をつかれる俺って……。 と、そんなことはどうでもいい。

「何か用があって呼んだんだろ? 」

「ああ。実はだな、ルードお前をーーー」


ゴンッ! ゴンッ! バタンッ!


語り出したと同時にドアが乱暴にノックされ一人の人物が入ってくる。


「ギャハハ! 兄弟唯一の汚点の無能様が左遷される瞬間を直々に俺様が見に来てやったぜぇ」


やたら声がデカいこいつはバムール家長男のドギャス。言わば俺の兄ちゃんだ。


髪は赤く染め、目つきが悪く人を殺してそうな顔つきをしている。


こんなんでも《剣聖》様なのだから俺はヘコヘコする以外の道はない。


因みに俺は《スキル》は持ってない。 ということになってるが実は普通に持っている。


俺が【今世】で授かったは《隠蔽》。 自分のスキルや見られたくない情報を隠すことの出来るスキルなのだが、どういう訳か授かったと同時に前世のスキルはいざ知らず《隠蔽》まで隠蔽されてしまったのだ。


そのためバムール家前代未聞のスキル無しーーー無能が誕生したと勘違いされたのだ。


だったらその場で隠蔽を解除したり、他のスキルを使って力を証明すればいい、そう思うかもしれないが俺はそうしなかった。


だってさーーー


ドギャス兄ちゃんは《剣聖》

クノーア兄ちゃんは《賢者》

マタラス兄ちゃんは《最上級テイマー》

タング兄ちゃんは《聖重騎士》

レル兄ちゃんは《二刀流》


そして俺、ルードは《隠蔽》 結局スキル無しの無能と何ら変わらないからだ。


戦闘面で大活躍確定の最強スキルが並ぶ中、隠蔽だぜ?


因みに前世の力はこの世界に転生する際に女神ととある約束をしたから今は使えない。


莫大な力を持ったスキルの使用は止められてるけど生活で使う《生活魔法》などは女神から許可が出ている。


後、転生した世界でやって行けるだけのスキルもok。 《強制勝利》とか《死者蘇生》とか世の理から外れたチートスキルがダメってだけだ。


何もしなくても勝てるから重宝してたのに……。


兄ちゃん達との訓練でボコボコにされて腹が立った時に使おうとしたのは良い思い出だ。


女神の悲しそうな顔が浮かんできてなんとか踏みとどまったけどね。


こう見えても俺、約束は守るんだ。 まぁ、そんなこんなで家族に面と向かって無能なんて言われるのは仕方ないのだ。


実の家族にこんなこと言われるのは悲しいし寂しいけどな。


いや、俺だって前世のことやスキルのこととか話してないしお互い様……か。


「んで? 親父さっきなんか言いかけてたけどなんだ? 」


マンガ読みたいから早くして欲しい。 そんなことを考えていると親父はこちらを向いて、ゆっくりと口を開き重々しくその言葉を投げつけてきた。


「お前をこの家から追放、いや左遷させることが決まった。昼までに荷物を纏めて出ていけ」


ぽかーんとしてしまう。


え?親父今、なんつった?


「ギャハハ! 流石のお前もこれには動揺するんだな。ゴブリンのクソよりも役に立たないお前をこの代々上級スキルを授かり、王国と太いパイプを繋いできた神聖なバムール家から追放すると言ってんだよ」


はぁ!? ゴブリンのクソよりは役に立つだろ!?


前の世界の賢者が今世ではクソ以下っておかしいだろ。 クソが世界を救った事になっちまうぞ!?(違うそうじゃない)


「ふんっ、話は終わりだ。行き先はこの地図に書いてある」


地図をばさりと投げつけると、話は終わりだと言わんばかりに手をしっしっ、とした。 出ろ、という合図だ。


「今、バムール家いい感じやねん。はっきり言ってお前みたいな本気を出さないダラダラとしたキャラ、だらキャラは要らない。出ろ!! 」


その言葉を持って俺はバムール家を追放されたのだった。 だるすぎる。


この先のことを考えながらとぼとぼと部屋に戻り、荷物を纏める。


最後にユナちゃんと話してから……いや、やめとこ。余計辛くなるだけだ。


当然見送りになんて誰も来てないけど、この屋敷を見るのも最後だからかぽつりと呟いていた。


「今まで世話なったな、さよなら」


15年間世話になった【屋敷】に礼を言って、その場を後にするのだった。