自室でマンガを読みながらゴロゴロとしていると、ドアがノックされた。


「ルード様、失礼します。当主様より伝言を授かっておりますのでそれをお伝えしに参りました」


この子は僕の専属メイドさんのユナちゃん。 俺が今手に取ってるこのマンガもユナちゃんにワガママを言って昨日買ってきてもらったやつだ。

「だからーユナちゃん俺には楽な口調でいいっていつも言ってるじゃんー」

「私もそうしたいのはやまやまですが、どうしてもメイドという立場上、勤務時間内はこうしなくてはいけませんので」

うがあぁ! あの親父とメイド長め!

ユナちゃんとの時間を奪うなんて許せんぞ。 ここは一言言っておかないとーーそう息巻いていると小さい声でぽつりと聞こえる。


「っ……す、少しでしたらいい……よ? 」


暴れ回る俺を見てユナちゃんが情けをかけてくれた。 そういうとともに隣にそっと座る。 一切音を立てないのは流石メイドといったところか。


「ルード様……」

「ユナちゃん? どったの? 」


心做しか頬が赤く染ってるように見える。

「あっ、い、いえ! ごめんなさい! 」


ほほう。これはあれではなかろうか? 例えるなら友達とかが皆真面目に勉強してるなか、自分達だけ別室でイチャイチャしたりするアレ。 その背徳感を感じているのだろう。かくいう俺もす、少しドキドキしてる。


だって普段こんなことしてるとメイド長がどこからが飛んできていつも邪魔をしてくるのだ。
しかし今回はやってくる気配は無い。 ふっ、勝ったな!


ドヤ顔を決めた瞬間、ドアがカチャリと開かれた。


はて? ノックもなしに入ってくる使用人やメイドさんなんて居たかな。 横に座ってるユナちゃんはドアの方向を向いて顔を真っ青にしながら震えている。


ひっじょーーに嫌な予感がするのは気のせいだろうか。 いや、だって小声で「ルード様ごめんなさい……」って呟いてるのよ?


もしや先程の思考はフラグだったのかもしれない。 ギギギ……と壊れかけのロボットみたいにドアへと振り返り目線を合わせる。


そこに居たのは仁王立ちをしブチ切れ寸前の女性の姿があるではないか。


さらりと背中まで伸びた金髪に、メイドらしからぬミニスカのメイド服。ここだけ見ると本当に可愛いんだけど、ギロリとこちらを睨んでるのが怖すぎる。 背中から炎が燃え上がってるんだけど!?


「ユナ……? 貴女は何を命令されたか覚えてますよね? まさか当主様からの御命令を忘れた挙句、勤務時間内にルード様と不純な行為をしていた訳ありませんよね? 」

「マドアンナ様……い、いや……その……」

「わりぃ! 俺がお願いして嫌々してくれただけだから。ユナちゃんは悪くないから怒らないであげてくれ」

「この無能ーーこほん、そうでしたかルード様、これは失礼しました。しかし、彼女の勤務時間内に誘うのは辞めていただければとこれまでに何回申し上げましたかね? 」

「さーせん。これからは気ぃつけるから、な? 」


ぱちん、と手を合わせて謝る。 これであの鬼メイド長も許してくれるはず。


「……ユナ、当主様からの伝言を」


許す・許さない所の話じゃなかった。 仮にもメイドに無視される貴族が居るだろうか?


「は、はい。当主様から預かりました伝言は、大事な話があるからすぐに書室に来い。来なかった場合はどうなるか分かってるな? ……との事です」

「では行きますよ。ルード様も早めに行かれた方がよろしいかと」

「へいへい分かったよ、このマンガ読み終えたら親父んとこ向かうわ」


あ、そうだ伝えておくことがあったんだった。 腕を引っ張られ連れていかれようとしてるユナちゃんにそれを言う。


「伝えたいことがあってな、夜この部屋来てくれない? 」

【伝えたいことがある】なんて今まで一度も言ったことがないからか、一瞬不思議そうな顔をしていたがOKの返事をくれた。

その時マドアンナが軽蔑的な視線と共に何か呟いたような気がするが聞き取れなかった。 まぁーーーいいか。 しかし俺はユナちゃんに伝えたい事を伝えることは出来なかった。 いやーーーもう会えなくなるなんてこの時は思いもしなかった。