「どっちにすんの?大切な人に会う?会わない?」
 目の前では、あの時と変わらぬ姿で僕に質問してくる親友がいる。僕はもう一度聞き返した。
「大切な人に会ったら、僕の中からその人の記憶が完全に消えて、その人からも僕の記憶が消えるんだよね」
「そう。でもその代わり、お前の世界にも大切な人の世界にも彩りが戻ってくる」
「逆に大切な人に会わなかったら、僕の中からはその人の記憶は消えないし、その人の中からも僕の記憶は消えないんだよね」
「でもその代わり、お前の世界も大切な人の世界もこれから一生灰色のままだ」
 僕は少しだけ勢いを強めて聞いてみた。
「じゃ、じゃあ、例えばだけど、この期間に大切な人に会えて、会ったあとには二人の世界が色彩豊かになって、その人の記憶が残るようにできないの?」
 親友は淡々と、あくまでも冥界の司令官とやらから指示されたことを成し遂げているように見える。僕は試しに、最善の考えを提案してみた。
「だめにきまってんだろ。お前馬鹿なのか?さっきから説明してんのに」
 もともと期待していなかったから別に良いけれど、あっさり突き返されたことに僕は少しだけ怒りを覚えていた。ため息をつきながらひたすら頭をひねっていると、親友がイライラしたように急かしてくる。
「いい加減に決めろよ。どっちにするんだ?会うのか会わないのか」
「ごめん。ごめんだけど、そんな急かさなくても良いだろ。今考えてんだって。どっちが大切な人のためなのか!」
 親友は小さく舌打ちをして、その場に座り込む。
「わかった。わかったから早く決めろよ」
 僕は小さく息を吐いて、今度は大きく息を吸った。
「会う。大切な人に」
「え・・・・・・」
「・・・どした?なんか僕、変なことでも言った?」
 親友が目を見開いて僕のことを二度見するものだから聞いてみたら、「お前のことだから会わないっていうのかと思ってた」と返された。僕は、「そんなことないよ」と笑いながら返事をする。
「どっちのほうが大切な人のためなのかなって考えたらさ、やっぱりこれからの長い時間はたくさんの景色を感じて、楽しんでほしいじゃん?だから―――会ったほうが良いのかな、って」
 覚悟は決めていた。
 あとは、”その日”を迎えるだけだ。