先程、朝食を頂いて、ランディ様と食後のお茶をしていたところだったので、給仕の方々が使っていたカップを下げて、手際良くお茶の用意をして下さっています。

オリビア様は、私を見てニコニコしていらっしゃいます。

『それにしてもソフィアは可愛いわね〜。もう少しギュッとして、スリスリしていたかったわ。』

そう言ってジトっとランディ様を見ます。

貴族社会とは、スキンシップに関する文化がちょっと違うみたいなのでしっかり確認しておいた方がいいですよね?

『あ、あの頬をスリスリするのは、龍神族の挨拶でしょうか?』

『まあっ。』

オリビア様が急に、ニヨニヨして、ランディ様を見ます。

ランディ様はいつも通りの爽やかな顔をなさっていますが…、私、何か変なことを言ってしまったのでしょうか?

『龍神族は、家族の親愛を伝えるときに、頬をスリスリするのよ。』

『ということは、家族だけの挨拶ですか?』

『そうよ。ソフィア。』

『そうなんですね。知りませんでした。』

だから、ランディ様もしていたんですね。謎が解けました。そういうことなら、凄く恥ずかしいですけど…、やっぱり慣れないといけませんよね。ローマにいるときはローマ人のするようにせよ。ということわざがありますし…。

『母さん、出鱈目を教えないで下さい。
ソフィアが変な誤解をしたじゃないですか‼︎

頬をスリスリするのは、龍神族の挨拶じゃないからね。僕以外と絶対しちゃダメだからね。』

(えっ‼︎今の出鱈目だったんですか?)

『あら、ランディがしっかりソフィアに頬をスリスリしていたから誤解したんじゃない?』

『僕はいいんです‼︎』

『まあ、横暴ね。』

『ソフィア。家族の親愛を伝えるときに、頬をスリスリするのは、母さんだけだからね。
嫌なら断っていいからね。ソフィアは僕とだけしたらいいんだから。』

『ランディ様とお母様だけですか?親子で受け継いでいるということは、スペンサー家だけの文化なんですね。』

ハルの体がプルプル小刻みに震え出しましたが、どうしたんでしょう?

心なしか…給仕の方々も、ニヨニヨ、プルプルして見えますが、気のせいでしょうか?

『母さんには無理にされなくてもいいんだよ。』

『恥ずかしいけど、嫌じゃないです。』

恥ずかしくて頬が熱いです…。

『まあ、真っ赤になって。素直で可愛いわ〜。
ソフィアが嫌じゃないなら、それでいいじゃない。そもそもこんな可愛い子を1人占めしようなんていうのがズルいのよ。

ソフィアに頬をスリスリするのは、私とランディだけ。これで決まりよ。』

(決まってしまった様です…。恥ずかしいですが、ここは覚悟して慣れる努力をした方がいいですね。)

『あ〜。』

ランドール様が、ガックリ肩を落としてしまいました。

『わしを除いてもらってはならぬな。』

ハルが大きくなって、体に巻きついて頭を頬にスリスリしてきました。ひんやり冷たくて気持ちいいです。

『ハルったら。』

私もハルの体を撫でてあげます。

(あっ、家族の親愛を伝えるってこういうことですね?私もずっとハルとしてました。
人間とはしたことが無かったので、ピンときませんでした。)

『あら、やっとハッキリ姿を現したわね。ヤキモチを焼いたのかしら。』

『えっ‼︎そうなの。ハル?』

『そうじゃ。』

そう言ってスリスリしてくるハルの体を撫でてあげる。

『ハルは生まれた時からずっと私の大事な家族なんだから、妬くことないじゃない?』

『あら、強そうなライバルね。ランディ。
さっきから、ソフィアの腕にウニョウニョしてるから気になってたのよね。蛇の神獣…⁈じゃないわね?貴方は、誰?』

『わしはハル、ソフィアの加護龍じゃ。』

『蛇の見た目で加護龍…ね。なんだか色々、事情がありそうね。

だいたいランディは、昨日、アリシアって子の聖女のお披露目パーティーに行ったんじゃなかったかしら?
なのにどうして、今まで一度も存在を聞いたことがない龍の巫女をちゃっかり花嫁にして連れて帰って来ることになったの?
ちゃんと説明して頂戴。』

(やっぱり急にお邪魔して不快だったんだわ。)

『いきなりお邪魔してしまって…ごめんなさい。』

『さっきも言ったけど、それはいいのよ。龍巫女の花嫁、しかもこんな可愛い子を連れて帰って来たことは、でかした‼︎と思っているわ。流石、私の息子ね。』

(ランディ様とオリビア様の会話を聞いてるとなんだか、私がとってもいいものになったみたいに感じます。胸が熱くなります。)