会場の入り口で、
『今日は、龍巫女ソフィアのお披露目だから、僕が挨拶して、可愛いソフィアを皆んなに見せびらかすからね。ソフィアは、隣で、笑ってたらいいからね。さあ、行こう。』

ん?なんか趣旨がズレたことを言われたような気がしたけど、考える余裕はなく、華やかな会場に足を踏み入れた瞬間、一斉に、皆の視線が集まり、一気に緊張で身が固まった。

『あ〜、しまった‼︎』

やっちゃったよ〜と言わんばかりの言い方に、緊張が緩んで、

『どうしたのですか?』
と声を掛ける。

『夢中になって、ソフィアに似合うドレスを選び過ぎちゃった。綺麗なソフィアに男どもが注目してる‼︎ライバルが増えちゃうよ〜。』

そんなことあるわけないのに、本当に、困ったみたいに言う姿がなんだか可笑しくて、心が和みました。

『大丈夫です。私なんて目立ちませんから、ライバルなんてでません。それに、ランドール様以外の方に気を取られたり致しませんから、心配いりません。』

『本当‼︎僕以外に目移りしたりしない?』

クーンという声が聞こえてきそうなほど、潤んだ瞳で真剣に聞かれて、

『こんな素敵な方が横に居るのに、目移りなんかしませんよ。』

とこたえたら、今度は、ブンブン振ったしっぽが見えそうなくらい上機嫌で、嬉しそうに笑って、
『なら、ソフィーって呼んでもいい?』
と甘い声で強請る。

頬が熱くなるのを感じながら、なんとか
『ええ。』
と答えたら、

『じゃあ、ソフィーは、ランディって呼んでね。』
期待の籠る目でそう言う。

『それは、親し過ぎませんか?』

『……ダメ?』

そう言って子犬のように、ジッと見つめてくる。丸く折れた耳が見える様です。

あー、そんな目で見つめられたら、断れません…。

『……ダ、ダメじゃないです。』

その瞬間、花が咲いたように笑う。

『はぁ〜』
という吐息があちらこちらから聞こえます。

『ソフィー呼んでみて。』

『は、はい…。……ら、ランディ様。』

『あー。嬉しいな。』

そう言って、可愛くて仕方ないみたいに頭を撫でる。

ドキドキが止まらなさ過ぎてこのまま、ランディ様の隣に居て、心臓、大丈夫かな…?と心配になる。

『さあ、もう少し中に進もうか?』

『はい。』

若い女性連れの背の高い紳士が、こちらに向かって来る。

『ランドール殿。久しぶりですな。』

『お久しぶりです。ペンネル伯爵。』

『こちら私の娘のケニーです。』

『始めまして。ランドール様。ケニー・ペンネルです。』

あー、目がハートだわ。

『ランドール・スペンサーです。』

『後で、娘とダンスを一緒に踊ってやってくれないかな?』

『折角のお誘いですが、ペンネル伯爵。今日、僕の花嫁に出会ったばかりで…。』

そう言って、甘い目をして、熱っぽく私をジッと見つめる。

ケニー様があからさまにシュンとされるのが目の端に見えました。

『花嫁ですと…⁈…ということは、この方は、龍の巫女様ですか…?』

ここは、ご挨拶した方が良いわよね…?

『ソフィア・ガパトニーと申します。』

『ガパトニーというと、子爵家の?』

『はい。』

『ガパトニー子爵家は、今日、聖女のお披露目をされるアリシア様しかお子さんがいらっしゃらないんじゃなかったですか?』

あー、家名を名乗るとこういう反応が返るんですね。家名は、名乗らない方がいいのでしょうか?でも、家名を名乗らないとそれは、それで、失礼ですよね…。

どうしましょう?ランディ様に確認したくても、挨拶したい人が沢山、並んでいて今は、無理そうです。

『ソフィアは、アリシアの姉です。今日、ノア王に面会して正式に龍巫女に認められたばかりなんです。』

『今日ですか…。それなら知らなくても仕方ないですな。
ランドール殿は、龍巫女の花嫁を見つけられたんですか?』

『ええ。やっと見つけまして、今、猛アタックしている最中なんです。ねっ、ソフィー。』

と言って熱い目で見つめてきます。頬がポッと熱くなるのを感じます。

『そっと見守って下さいね。』

『…そうでしたか。では、私たちは、これで。』

そう言って立ち去られると、今度は、3人組の綺麗な女性たちが挨拶にいらっしゃいました。

次々に、ランディ様に、熱っぽい視線を向けて、挨拶していきます。

私に向ける視線には、明らかに敵意があります。次々、敵意丸出しの視線を向けられて、
思わず、身体に力が入ります。ランディ様が、腰に手を回して、私の体を引き寄せ、

『紹介するよ。僕の花嫁。ソフィアだよ。』
とおっしゃいました。

『花嫁って…、あの、龍巫女の花嫁ですか?』

表情も声も、こんな子が花嫁なんて信じられないと言っています…。折角、選んで頂いたから、自信を持って胸を張りたいですが…、残念だけど、同感です。どうしても、なんで私が⁈と思ってしまいます。

『そうだよ。やっと出会ったんだ。』

女性の話す声が大きいので、周りにも、私がランディ様の花嫁だと聞こえたようで、

『そんな〜。』
と嘆く声がちらほら聞こえます。

ランディ様は、そんな声など耳に入らないようで、今日、選んでプレゼントして下さったエメラルド色のイヤリングの宝石を、いじり始めました。

これはどうしたらいいものなのかと思っていたら、

『ねえ、ソフィー、この宝石と同じ色の指輪を今度、送ってもいいかい?』

と、甘い声で聞いてきます。

ランディ様はちょっとズルいです。そんな風に皆んなの前で聞かれたら、断れません。

『…はい。ランディ様。』

一気にランドール様の顔が破顔して、こちらが蕩けてしまいそうな笑顔を向けます。

皆、ランディ様の笑顔に蕩けたように見惚れています。

『嬉しいよ。ソフィー。』
と囁かれて、恥ずかしさとドキドキで胸が一杯になりました。

ランディ様に翻弄されている間に、熱っぽかった3人の目が、気づけば、冷めていて、

『それではご機嫌よう。』
と足早に去っていかれました。