「せ……世那、これって……」
「救急車呼んで! 早く!」
「え? ちょ、由良くん? 水が当たっただけっしょ?」
「いいから早くしろって! タオル持ってる人がいたら貸してくれ!」
 遠くから様子を見ていた人には、この状況がいかに深刻なものかわかるはずもない。
 顔を真っ青にした友人の手を払った和泉の顔は、水しぶきが当たった場所から赤く腫れ始めていて、怯えるように震えていた。これ以上悪化したら、命の危険だってある。
 タオルを持っている女子から借りて和泉の体を覆う。火傷に似たひりひりとした痛みは、風が頬を撫でるだけでも痛いらしい。触れることも、冷やすこともできない。
 症状を見た先生が慌てて電話をした十分後、和泉は保険医の先生に連れ添われる形で救急車に運ばれていった。
 僕は学校に残って、先生に和泉の話をどこまで知っているのかと問い詰められた。
 学校で何かあった時のために、彼女の両親から事前に話を聞いていたが、生徒の中で知っているのは僕以外いないという。
 それはそうだ。僕だって猫がじゃれつかなければ彼女の秘密なんて知ることはなかった。
 教室に戻ると、あんなに騒がしかったクラスメイトたちは黙ったまま、眉間にしわを寄せている。和泉と同じように濡れた子が僕のところに来ると、躊躇いながらも小声で聞いてくる。
「世那って、もしかしてあの病気なの……?」
 間近で鱗を見てから、顔色は真っ青なまま。彼女以外、和泉の鱗を目にしていないことは幸いだった。
「見間違えたんじゃない? 水が滴ったのが反射して光ったように見えたとか」
「でもっ」
「和泉、驚いてパニックになっただけだと思うから。戻ってきたらいつも通りでいようよ」
 ――それがたとえ、人魚病だったとしても。
 僕がそう言うと、少し考えてから小さく頷いた。