――翌週の体育の授業。予告通りにプール掃除が始まった。
 前のクラスがある程度汚れを落としてくれたから、僕らのクラスはプールの中をもう一度洗いなおして、用具室を整理するだけだ。
 快晴の空の下、大半が半袖でズボンの裾をまくってプールの底をブラシでこする中、和泉は徹底して長袖長ズボンのジャージ姿で濡れないように用具室を掃除していた。
 もちろん僕はプール掃除に振り分けられた。ホースを使って壁の汚れを落としていく。足元を流れていく水は、たとえ汚れた水でも心地良い。
「おーい! そっち暑くないかー?」
 すると、ホースを持っているクラスメイトの一人が、用具室を掃除していた生徒に声をかける。狭い場所で、和泉を除いた四人が顔を覗かせると、「暑いー」「そっちいいなー」などとプールの縁に近寄っていく。
「水かけてやろっか?」
「直接はやめてよね! うちら着替えないんだから!」
「ジャージじゃん」
「タオルないもん!」
「ちゃんと加減するって! ――って、うわっ⁉」
 途端、ホースを持っていた生徒が足を滑らせて派手に転んだ。出しっぱなしにしていた水は勢いよく用具室のほうへ向かっていく。気付いたときには遅かった。
 用具室の出入り口の壁に当たって反射した水が、近くにいた生徒にかかっていく。髪も服も濡れて、悲鳴が聞こえてくる。
 その中には和泉の姿もあって、体を抱えるようにその場に蹲ってしまった。
「世那、大丈夫ー?」
「びっくりしたよね、でも涼し……え?」
 和泉に駆け寄った一人が、彼女の手を取って目を丸くする。
 嫌な予感がして、プールから上がって和泉のもとへ行く。左手の甲が赤く腫れあがり、鱗のようなものが水滴を伝って煌めいた。