付き合って。ではなく、そばにいて。――なんてややこしいんだろうって、自分でも思う。
 それでも和泉から追及してくることはなかった。今まで通りの距離感を保ち、帰りに一緒に下校する。たったそれだけの関係は、次第にクラスメイトに怪しまれ始めた。
「世那って、由良くんと付き合ってるの?」
「この間、先輩からの告白を断ってたよね? 今まで好きな人教えてくれなかったし、やっぱりそうなの?」
「えーっと……」
 仲の良い友達に絡まれた和泉が、目で「助けてよ!」と訴えかけてくる。帰り道が一緒とか、適当に誤魔化せばいいのに。
 目を見ただけで伝わるわけがないのに、和泉は何を感じ取ったのか、力強く頷いた。
「う、うん! 私、由良くんと付き合ってる!」
「おい!」
 誰もそんなこと言ってねぇよ!
 思わず声が出た。僕の意図を汲みとった気になっている和泉の笑みを見てめまいがした。
「え? 違うの?」
「違うっていうか……それでいいのか?」
 この関係は、人魚病を黙っている条件で続いているものだ。そばにいてとは言ったけど、付き合ってとは言ってない。
「私は嬉しかったよ? 由良くんはちがうの?」
 違わない。――と答える前に、目を逸らした。それが周囲には照れ隠しだと思われたみたいで、流れるままに茶化された。
 和泉が僕のことをどう想っていようが関係ない。取引の上で仕方なく付き合っていることに変わりはない。
 だからこそ苦しい。こんな条件を出した自分をひどく恨んだ。
 残りの時間なんて曖昧な言い方は、いつ終わりが来てもいいように身構えているようなものだ。そんな時に僕一人が浮かれるわけにはいかない。
 残りの時間を僕なんかのために動こうとしている時点で、彼女はかなりのお人好しだ。