何とか腕を掴んで引き上げ、海上に顔を出す。少し海水を飲んだらしい。和泉も浮き上がってすぐにむせた。間に合ってよかったと安堵する。
 そのまま彼女の体を抱きかかえて岸へ向かう。できるだけ人気のなさそうな場所を見つけて海から上がり、その場におろした。
「焦った……大丈夫か?」
「……なんで……助けたの?」
「和泉が目の前で飛び込んだから」
「私、頼んでない」
「頼まれてないね」
「じゃあなんで!」
「和泉がいなくなるのが怖かった。――それじゃ、ダメ?」
 僕がそう答えると、彼女は唇を噛みしめた。頬を伝うのは海水か涙か。どちらにせよ、今の彼女の表情は絶望しているようにしか見えない。
「……お母さんも友達も、周りにいる人すべてが怖い。死がそこまで迫っていることを知った途端、皆が嬉しそうに笑ったように見えたの。……この心臓が止まったら、鱗を容赦なくはがされて土に埋められる。ううん、もしかしたら検体として処理されるかもしれない。……そう考えたら、何もかも嫌になった」
「海に飛び込んだのは、どうして?」
「最後に好きな場所で、なりたかったものになって最期を迎えたかった。誰もいない真っ暗な海の底で」
 死にたかった――和泉が言いかけたところで、僕は彼女の腕を掴んで目を合わせる。突然のことに驚いた彼女は、目を丸くしている。
「なんで僕を呼んだ? 覚悟決めてここに来たのに、誰かに見届けさせようとするなんておかしいだろ」
「それは……」
「本当は、死にたくなかったからじゃないのか?」
 言い当てられたのが悔しいのか、和泉は僕を睨みつけた。