プールでの一件からしばらくして、和泉は退院した。それでも学校に来ることはなかった。
 担任の先生から詳しい話はなかったけど、クラスメイトは皆、彼女が人魚病患者であることを疑っている。幸いしたのは、誰もそのことを口に出していないこと。和泉の心配ばかりして、ビデオレターを作って送るほど、献身的に支えようとしていた。
 和泉が学校に現れたのは、二週間経った日の放課後だった。
校門で僕が出てくるのを待っていたらしい。半袖やスカートを着ていても、上にカーディガンを羽織って、タイツで足を隠す徹底ぶりは相変わらずだ。
「海に行きたくて。ついてきてくれる?」
 有無を言わさず、和泉は僕の腕を掴んで歩き出す。
 何度も通っていた海岸に着いて、いつもは近付かない防波堤に足を向けた。夕方にもかかわらず誰もいなくて、いつもよりも波の音が大きく、磯の香を強く感じた。
 和泉は僕の腕から手を放すと、先端に向かって歩いていく。時々ふらついて、ぎこちない歩き方はどこか焦っているように見えた。
「和泉、そっちは危ないよ」
「……由良くん、クラスの皆はどうだった?」
「え?」
 途端に立ち止まった彼女は、僕のほうを見て問う。風で前髪が顔にかかって、うまく表情が読みとれない。羽織っていたカーディガンを脱ぐと、両腕に散りばめられた鱗が露わになった。
「ちょっと待て、人がいないからって――」
「いいの。……最初はね、皆の声が温かくて、大丈夫かもって思った。ビデオレターも観たの。すごく嬉しかった……のに、皆、笑ってた」
「和泉?」