【先天性魚鱗癬紅皮症】――通称「人魚病」。
水に触れると稀に発症するこの奇病は、赤い発疹が現れると十日ほどかけて魚の鱗に変わる。増えていくにつれて痛みを伴い、無理に鱗をはがすと出血、皮膚が爛れてしまう。
鱗は最終的に下半身を覆い、歩くことが困難になる。
重症の場合は硬くなった鱗が心臓を覆いつくし、正常に機能できず心肺停止で死亡。
この病気が人魚病と言われる所以は、発症者のほとんどが女性で、症状は足から始まるからだ。
きわめて奇妙で特殊、治療法が見つからない奇病。
だからこそ周囲の偏見はひどく、自分のことではないからと平気で叩く。
僕がその奇病を目の当たりにしたのは、学校帰りに野良猫にすり寄られていたクラスメイトの女子と遭遇したときのことだ。
猫が彼女のタイツをひっかいて穴が開いてしまい、伝線して広がると同時に現れたのは、白い肌に張り付いた鱗だった。光に当たると反射して、まるで万華鏡を切り取って張り付けたかのような、異質な皮膚。
思わず僕は言葉を失った。皮肉にも綺麗だと思ったなんて、口が裂けても言えない。
「……っ、ご、ごめんなさい!」
伝線したタイツから覗かせたそれを慌ててハンカチで隠すと、彼女――和泉世那は逃げるようにその場を立ち去った。
その症状が人魚病だと確信したのは、ニュース番組の特集だった。何十年も前に初めて確認されたが、実例を見たことがない医師のほうが多い。故に、研究している科学者も少ない。
さらに皮肉なことに、死亡後に発症が確認されたケースもある。皮膚には異常がなかったのに、異臭がして腹を開いたら心臓にびっしりと鱗が生えていたそうな。
何よりも醜くて気味の悪い、治療法が見つからない謎の奇病。
だからこそ画面の向こう側の評論家は「人魚の呪い」だと脅かしてくる。
和泉がもし本当に人魚病なら――食いつくようにテレビに見入った。
いいや、確証はない。僕の憶測で、彼女の日常を壊すわけにはいかない。
金輪際、彼女とは関わらない。――そんな矢先だった。
水に触れると稀に発症するこの奇病は、赤い発疹が現れると十日ほどかけて魚の鱗に変わる。増えていくにつれて痛みを伴い、無理に鱗をはがすと出血、皮膚が爛れてしまう。
鱗は最終的に下半身を覆い、歩くことが困難になる。
重症の場合は硬くなった鱗が心臓を覆いつくし、正常に機能できず心肺停止で死亡。
この病気が人魚病と言われる所以は、発症者のほとんどが女性で、症状は足から始まるからだ。
きわめて奇妙で特殊、治療法が見つからない奇病。
だからこそ周囲の偏見はひどく、自分のことではないからと平気で叩く。
僕がその奇病を目の当たりにしたのは、学校帰りに野良猫にすり寄られていたクラスメイトの女子と遭遇したときのことだ。
猫が彼女のタイツをひっかいて穴が開いてしまい、伝線して広がると同時に現れたのは、白い肌に張り付いた鱗だった。光に当たると反射して、まるで万華鏡を切り取って張り付けたかのような、異質な皮膚。
思わず僕は言葉を失った。皮肉にも綺麗だと思ったなんて、口が裂けても言えない。
「……っ、ご、ごめんなさい!」
伝線したタイツから覗かせたそれを慌ててハンカチで隠すと、彼女――和泉世那は逃げるようにその場を立ち去った。
その症状が人魚病だと確信したのは、ニュース番組の特集だった。何十年も前に初めて確認されたが、実例を見たことがない医師のほうが多い。故に、研究している科学者も少ない。
さらに皮肉なことに、死亡後に発症が確認されたケースもある。皮膚には異常がなかったのに、異臭がして腹を開いたら心臓にびっしりと鱗が生えていたそうな。
何よりも醜くて気味の悪い、治療法が見つからない謎の奇病。
だからこそ画面の向こう側の評論家は「人魚の呪い」だと脅かしてくる。
和泉がもし本当に人魚病なら――食いつくようにテレビに見入った。
いいや、確証はない。僕の憶測で、彼女の日常を壊すわけにはいかない。
金輪際、彼女とは関わらない。――そんな矢先だった。