昔、紀伊国にわたつみと申す神おはします。その神、年毎まつりにていけにへを奉るなり。ひとの女かたちよく色白く姿らうたげたるもの求めて奉りける。
ある女いけにへにさし当てられにけり。親なく国の生まれならず逆ふものありしもせむかたなし。女月日嘆きて過すほどに、やうやう命つづまりけり。
そのまつりの日になりて宮司よろづの人々こぞり集まりて長櫃に女入れわたつみのもとへこれを浮かべ火をつけけり。
かくのごとく見るほどにむら雲大空に引き蓋ぎて、雷光満ち車軸のごとくなる雨降りて火はしり風おしおほひて家に移りて煙り炎くゆりける。
わたつみ怒らせにけりと人のくちずさみなほやまず。
げにおそろしきことなり。
ある女いけにへにさし当てられにけり。親なく国の生まれならず逆ふものありしもせむかたなし。女月日嘆きて過すほどに、やうやう命つづまりけり。
そのまつりの日になりて宮司よろづの人々こぞり集まりて長櫃に女入れわたつみのもとへこれを浮かべ火をつけけり。
かくのごとく見るほどにむら雲大空に引き蓋ぎて、雷光満ち車軸のごとくなる雨降りて火はしり風おしおほひて家に移りて煙り炎くゆりける。
わたつみ怒らせにけりと人のくちずさみなほやまず。
げにおそろしきことなり。