「そなたは、今日から私の料理人だ。」



ここは、領土が広く、鬱蒼とした森が多い自然に恵まれた国── 周羽(ジョウユー)国。
周羽国は、食事や武道、医療…様々な面で、隣国よりも良い技術を持っている良い国だと言える。
だが、一方で周羽国の皇帝は代々、味覚を失う呪いを受け継いでいた。
原因の詳細は、民たちには非公開になっている。
が、公には初代の皇帝が広い領土と引き換えに、自ら呪いをかけたという。
代々、皇帝になる者は、儀式を受けて、背中に龍の印を刻むらしい。
それは、遺言書の役割も担っている。
何を食べても、何を飲んでも味覚を感じないのだ。
だが────。



「こ…これはなんだ?」
周羽国の五代目皇帝、徐暁飛(ジュショフェイ)月餅(げっぺい)にかじりつく。
側に控えるのは、月餅を作った本人…陳詩希(チェンシュウシー)
詩希は、男物の衣を纏っている。
だが、女だ。
詩希は、性別を隠して、宮中で料理人として働いていた。
それは、暁飛も知らない。