今は恋に興味はない。
わたしはVTuber一筋だから!
と答えたはずなのだが、なぜかやけに強く頷かれてしまった。
これは……あれか? ガチ恋勢として匂わせがないことに安心した、みたいな話か?
その気持ちはまぁ、わからないでもない。
俺も推しに”裏切られた”ような気持ちになってしまうことはあるから。
俺はユニコーンではなかったので、ギリギリ反転アンチにならずに堪えられたし、せいぜいがゲロ吐くくらいだったし、仕事が手につかなくなったので病院へ行ってメンタルケアをお願いした程度の”軽傷”で済んだが。
……え? もちろん前世での話だ。
しっかし本当に気まずいな!?
早くこのふたりきりという状況から脱出させてくれ! だれか助けてくれぇえええ!
……そんな心の叫びが届いたのか。
「あぁ~~~~! やっと見つけたぁ~~~~!」
「マイぃいいいいいい!」
校舎裏に「ぜーっ、はーっ」と息を切らしたマイが現れた。
遅いよバカぁ~!
これほどまでマイに会えてうれしかった瞬間はないだろう。
俺は救世主の参上に心から感謝した。
「って、イイイイロハちゃん!? やっぱりその子と会ってたんだ!? ダメって言ったのにぃ~~!」
「言ってたっけ?」
「言ってたよぉ~! なんども引き留めようとしてたよぉ~!」
マイが頭を抱えて「ウクライナ語だったからどこ行ったかもわからなかったし、放課後気づいたらいなくなってるし。あぁあああ、もっと早く来られていれば」と唸っている。
そういえば伝えるの忘れてたわ。
「すまんすまん」
「まったくだよぉ~! それよりもイロハちゃん大丈夫だった!? まさか”また”キスされてないよね!? イロハちゃんはマイのだから! 絶対に渡さないから!」
マイが俺の腕にしがみつき、転校生を威嚇している。
「また」ってなんだよ! あんぐおーぐとのはノーカンだから! 事故だから!
けれど「渡さない」って、なるほど。
マイがあれだけ動揺していたのは、転校生が俺にガチ恋してると知り”友だち”を取られると思ったからだったのか。
そんなマイを見て転校生は……。
<……フッ>
「なぁ~っ!? イロハちゃん見た!? い、今っあの子、マイのことを鼻で笑っ……! ムキィ~~~~!」
ふたりがバチバチとにらみ合っている。
って、あれ? マイが登場して余計に話がややこしくなってないか?
「……もう好きにしてくれ」
俺は考えることを放棄した。
あ~、すぐにでもVTuberの配信を見て心を癒したい。
ふと自分が持っていたものに気づく。
そうか、これはこのときのためだったのか。
俺は無心で防犯ブザーのひもを引っ張った。
けたたましい音が校舎裏に響き渡った――。
* * *
数日後……。
学校で廊下を歩いていると、視線を感じた。
ハッと振り向くと、曲がり角からじぃ~っと転校生が見ていた。
視線がかち合った。
<!?!?!?>
向こうもバレたと気づいたのか、あたふたと顔を隠す。
いや、隠れてるのかそれは……?
スマートフォンで鼻から下だけを隠し、目はいまだチラチラとこちらに向けられていた。
あの画面ではおそらく、俺の動画が再生されているのだろう。
というか彼女のスマートフォンは壁紙まで”翻訳少女イロハ”だった。
そしてどこからともなくマイが現れ、俺に腕を絡めてくる。
警戒心マシマシの視線を転校生に向け、転校生もまたマイを挑発する。
あの日以降、これが俺の学校生活における日常となった。
* * *
騒がしくなった学校生活も、毎日続けば日常だ。
なんだかんだアレに慣れてしまった。我ながら人間ってすごいな。
予定されていた各国の、海外勢VTuberとのコラボ配信も無事に終わって……。
《ふぅーん? へぇー? ほぉー? イロハはずいぶんと学校生活をお楽しみだったんだなぁー?》
《うん、ほんっとに! 最初はどうなるかと思ったけど、今はうまくやってるよ。おーぐは?》
《むっ……!? ま、まぁ? ワタシも最高だけどなっ!》
>>気づいてやれイロハ、正妻が嫉妬してるぞwww(米)
>>おーぐはイロハちゃんのヨメだからね
>>イロハは女たらしだから、ちゃんと首輪つけておかないと(米)
今日はたまたま予定が合ったので、あんぐおーぐとコラボ配信だ。
その雑談の流れで近況報告をしていた。
《ヨメじゃない! 嫉妬もしてないし! ただ、イロハもずいぶんと忙しくなったなー、と思っただけ。今日だって1ヶ月ぶりのコラボだし》
《え、もうそんなに経ってたっけ? 前ってたしか自由研究だよね?》
《ひどっ!? イロハは、ワタシのこと考えもしなかったんだ!?》
《最近はドタバタしてたからなー。うっわー、時間経つの早い。っていうか、忙しくて予定合わなかったのはわたしじゃなくおーぐが原因でしょ。いろいろと準備中なんだよねー?》
《うぐっ……ま、まぁな》
>>アレか(米)
>>アレだな(米)
>>遠距離恋愛はツラいな
《恋愛じゃない! けど、はぁ~。イロハと会って一緒に遊びたい。早くアメリカに遊びに来てよー。約束したじゃん-?》
《わたしも行きたいんだけど学校があるからねー。長期休暇も、今年の冬は受験、来年の春は入学……だから来年の夏かな》
>>イロハちゃんアメリカに遊びに来るの!?(米)
>>アメリカ観光なら俺たちに任せろ(米)
>>めっちゃ楽しみ!!!!(米)
《来年の夏!? そんなの遠すぎて待ちきれないよ! 学校に「旅行するから休みます」って言って来てよぉ~》
《えぇっ!? そんなの絶対にムリ!》
《あ、そっか。日本ってそーゆーの厳しいんだっけ》
>>旅行で学校休んじゃダメなの?(米)
>>日本人は学生までマジメなんだな(米)
>>日本じゃ死にそうな病気以外で休暇を取るのは悪と見なされるからね(米)
《あはは、さすがにそこまでは厳しくないよ。けど早く会いたいのはわたしも同じ》
《そのときはワタシが完璧に”オモテナシ”してあげる》
《うん、よろしくー。とまぁ、ここまでまるで久しぶりの会話みたいなこと言ってるけど、じつは裏では2日おきくらいで通話してるんだけどね》
《なっ……!? お、おいっ! バラすなよ!?》
あんぐおーぐが慌てた様子で声を漏らした。
わたしはVTuber一筋だから!
と答えたはずなのだが、なぜかやけに強く頷かれてしまった。
これは……あれか? ガチ恋勢として匂わせがないことに安心した、みたいな話か?
その気持ちはまぁ、わからないでもない。
俺も推しに”裏切られた”ような気持ちになってしまうことはあるから。
俺はユニコーンではなかったので、ギリギリ反転アンチにならずに堪えられたし、せいぜいがゲロ吐くくらいだったし、仕事が手につかなくなったので病院へ行ってメンタルケアをお願いした程度の”軽傷”で済んだが。
……え? もちろん前世での話だ。
しっかし本当に気まずいな!?
早くこのふたりきりという状況から脱出させてくれ! だれか助けてくれぇえええ!
……そんな心の叫びが届いたのか。
「あぁ~~~~! やっと見つけたぁ~~~~!」
「マイぃいいいいいい!」
校舎裏に「ぜーっ、はーっ」と息を切らしたマイが現れた。
遅いよバカぁ~!
これほどまでマイに会えてうれしかった瞬間はないだろう。
俺は救世主の参上に心から感謝した。
「って、イイイイロハちゃん!? やっぱりその子と会ってたんだ!? ダメって言ったのにぃ~~!」
「言ってたっけ?」
「言ってたよぉ~! なんども引き留めようとしてたよぉ~!」
マイが頭を抱えて「ウクライナ語だったからどこ行ったかもわからなかったし、放課後気づいたらいなくなってるし。あぁあああ、もっと早く来られていれば」と唸っている。
そういえば伝えるの忘れてたわ。
「すまんすまん」
「まったくだよぉ~! それよりもイロハちゃん大丈夫だった!? まさか”また”キスされてないよね!? イロハちゃんはマイのだから! 絶対に渡さないから!」
マイが俺の腕にしがみつき、転校生を威嚇している。
「また」ってなんだよ! あんぐおーぐとのはノーカンだから! 事故だから!
けれど「渡さない」って、なるほど。
マイがあれだけ動揺していたのは、転校生が俺にガチ恋してると知り”友だち”を取られると思ったからだったのか。
そんなマイを見て転校生は……。
<……フッ>
「なぁ~っ!? イロハちゃん見た!? い、今っあの子、マイのことを鼻で笑っ……! ムキィ~~~~!」
ふたりがバチバチとにらみ合っている。
って、あれ? マイが登場して余計に話がややこしくなってないか?
「……もう好きにしてくれ」
俺は考えることを放棄した。
あ~、すぐにでもVTuberの配信を見て心を癒したい。
ふと自分が持っていたものに気づく。
そうか、これはこのときのためだったのか。
俺は無心で防犯ブザーのひもを引っ張った。
けたたましい音が校舎裏に響き渡った――。
* * *
数日後……。
学校で廊下を歩いていると、視線を感じた。
ハッと振り向くと、曲がり角からじぃ~っと転校生が見ていた。
視線がかち合った。
<!?!?!?>
向こうもバレたと気づいたのか、あたふたと顔を隠す。
いや、隠れてるのかそれは……?
スマートフォンで鼻から下だけを隠し、目はいまだチラチラとこちらに向けられていた。
あの画面ではおそらく、俺の動画が再生されているのだろう。
というか彼女のスマートフォンは壁紙まで”翻訳少女イロハ”だった。
そしてどこからともなくマイが現れ、俺に腕を絡めてくる。
警戒心マシマシの視線を転校生に向け、転校生もまたマイを挑発する。
あの日以降、これが俺の学校生活における日常となった。
* * *
騒がしくなった学校生活も、毎日続けば日常だ。
なんだかんだアレに慣れてしまった。我ながら人間ってすごいな。
予定されていた各国の、海外勢VTuberとのコラボ配信も無事に終わって……。
《ふぅーん? へぇー? ほぉー? イロハはずいぶんと学校生活をお楽しみだったんだなぁー?》
《うん、ほんっとに! 最初はどうなるかと思ったけど、今はうまくやってるよ。おーぐは?》
《むっ……!? ま、まぁ? ワタシも最高だけどなっ!》
>>気づいてやれイロハ、正妻が嫉妬してるぞwww(米)
>>おーぐはイロハちゃんのヨメだからね
>>イロハは女たらしだから、ちゃんと首輪つけておかないと(米)
今日はたまたま予定が合ったので、あんぐおーぐとコラボ配信だ。
その雑談の流れで近況報告をしていた。
《ヨメじゃない! 嫉妬もしてないし! ただ、イロハもずいぶんと忙しくなったなー、と思っただけ。今日だって1ヶ月ぶりのコラボだし》
《え、もうそんなに経ってたっけ? 前ってたしか自由研究だよね?》
《ひどっ!? イロハは、ワタシのこと考えもしなかったんだ!?》
《最近はドタバタしてたからなー。うっわー、時間経つの早い。っていうか、忙しくて予定合わなかったのはわたしじゃなくおーぐが原因でしょ。いろいろと準備中なんだよねー?》
《うぐっ……ま、まぁな》
>>アレか(米)
>>アレだな(米)
>>遠距離恋愛はツラいな
《恋愛じゃない! けど、はぁ~。イロハと会って一緒に遊びたい。早くアメリカに遊びに来てよー。約束したじゃん-?》
《わたしも行きたいんだけど学校があるからねー。長期休暇も、今年の冬は受験、来年の春は入学……だから来年の夏かな》
>>イロハちゃんアメリカに遊びに来るの!?(米)
>>アメリカ観光なら俺たちに任せろ(米)
>>めっちゃ楽しみ!!!!(米)
《来年の夏!? そんなの遠すぎて待ちきれないよ! 学校に「旅行するから休みます」って言って来てよぉ~》
《えぇっ!? そんなの絶対にムリ!》
《あ、そっか。日本ってそーゆーの厳しいんだっけ》
>>旅行で学校休んじゃダメなの?(米)
>>日本人は学生までマジメなんだな(米)
>>日本じゃ死にそうな病気以外で休暇を取るのは悪と見なされるからね(米)
《あはは、さすがにそこまでは厳しくないよ。けど早く会いたいのはわたしも同じ》
《そのときはワタシが完璧に”オモテナシ”してあげる》
《うん、よろしくー。とまぁ、ここまでまるで久しぶりの会話みたいなこと言ってるけど、じつは裏では2日おきくらいで通話してるんだけどね》
《なっ……!? お、おいっ! バラすなよ!?》
あんぐおーぐが慌てた様子で声を漏らした。