「塾から電話来てたの? 先生はなんて言ってた?」

「あぁ、全般コースの真ん中(・・・)のクラスだったよ」

 帰宅した母親にそう告げる。
 それを聞いた母親はキョトンとしていた。

 もしかするといきなり最上位クラス、なんてのを想像していたのかもしれない。
 はははー、そんなわけないじゃないかー。

「そう。でも気を落とす必要はないからねっ! 最初はそんなものよ。気にしなくてもあんたならきっとすぐ、もっと上のクラスにいけるわよ」

「ありがとー」

 と話を合わせておく。
 まぁ、まったく気にしてないどころか興味もないけどね!

 それに……。
 俺の脳裏には、さきほどの電話でのやり取りが呼び起こされていた。

   *  *  *

『あなたなら特待生になれます!』

「はいぃいいいいいい!?」

 いやいやいや、そんなバカな! なにか裏があるに決まってる!
 だって全然、出来よくなかったぞ!?

 可能性があるとすれば、英語のできがズバ抜けて良かったから、とか?
 けれど、それだけですぐ『特待生』となるとは思えない。

 アレくらいなら帰国子女やバイリンガルなど、同じ点数を取れる子どもは意外と多い。
 そう訝しみながら話を聞いてみると……。

『もちろん、今すぐというわけではなく将来的に、というお話にはなりますが』

 ただのリップサービスじゃねーか!?
 なーんだ……い、いや!? 全然、期待とかしてなかったけど!?

 なんでも、特待生になるには条件を満たす必要があるとのこと
 条件はふたつ。

 ひとつはコース選択を塾側が指定した『難関中学コース』にすること。
 もうひとつは夏期講習の終わりにある、テストで成績上位となること。

 俺じゃなかったら間違いなく引っかかってたな、これ!?
 母親はもとから乗り気だし。

 「キミには才能がある」と言われて悪い気のする子どももいまい。
 「あなたの子どもには才能がある!」と言われた親も同様。

 なんてうまい誘い文句だろう。
 まさか、本当に俺のことを”特待生になれる逸材”だなんて思ってるはずもないし。

 きっとみんな同じこと言われてるんだろうなー。
 本当に特待生になり難関中学に合格すれば、塾の実績としてプラス。
 そうでなかったとしても、入塾した時点で収益としてプラス。

 親としても「将来的に特待生になるのなら」「今だけなら」とサイフのヒモを緩めてしまうだろう。
 期待値はいつだって無限大なのだから。

 それに特待生にも2種類あるらしい。
 全額免除のA特待と、半額免除のB特待。
 そう言われたら最悪でも片方にくらいは引っかかるだろう、と思ってしまう。

 だれだって株を買うときは上がるのを想像して買うもんだ。
 そして一度資金を投入すれば、あとに引くのは難しい。
 来年2月、受験が終わるまで塩漬けとなる。

 もちろん塾側――先生に悪意があってのことではない。
 商売の基本、相手の求めるものを提示しているだけなのだから。

   *  *  *

 まぁ、現実そんなもんだよねー。
 と俺は雑談の一環で話していた。

【へー、そんな感じなんだ? ウチは中学受験しちょらんからなー。恥ずかしながら高校受験と大学受験も、マジメに勉強せんと遊びほうけちょったし】

 今日は韓国勢VTuberたちとのコラボだ。
 俺にしては珍しくゲーム配信。
 せっかくだからと韓国語縛りでFPSのチームプレイをしていた。

【私はよくわかります。韓国は中学受験も高校受験もないですが、日本よりもずっと学歴社会です。学校は勉強のための場所で、日本みたいな部活動もありません】

【そうなの?】

【はい。高校時代は受験の心配ばかりでした。試験当日は国全体で受験生を応援します】

>>受験トラウマだわ(韓)
>>1000万ウォン積まれても二度と受けたくない(韓)
>>オレ遅刻しかけて会場までパトカーで送ってもらったわ(韓)

【えっ、パトカーで!?】

>>俺も知らんおっさんにバイクで送ってもらった(韓)
>>遅刻しかけたことが今でも夢に出る(韓)
>>スヌンやっけ?

【はぇ~、韓国のみんなも受験で苦労してたんだねぇー】

【え? ちょい待って??? イロハちゃん、今ハングルのコメント読んじょらんかった?】

【あ、はい。先日、読めるようになりました】

>>読めるようになりました←www(韓)
>>マジ? なんかコメント拾ってみて(韓)
>>醤油工場の工場長はカン工場長で、味噌工場の工場長はチャン工場長だ(韓)

【醤油工場の工場長はカン工場長で、味噌工場の工場長はチャン工場長だ】

>>!?!?!?(韓)
>>俺より韓国語ウマいんだが???(韓)
>>オレより早口言葉ウマくてビビった(韓)

【え? 今の早口言葉だったの?】

 カンジャンコンジャンコンジャンジャンウンカンコンジャンジャンイゴ、テンジャンコンジャンコンジャンジャンウンチャンコンジャンジャンイダ……。
 うわっ、本当だ言いにくっ!?

 全然、早口言葉を言っている自覚がなかった。
 歌は棒読みになるのに、早口言葉はうまくなっていた。