生暖かい風のそよぐ夕暮れ。金色の光が雲の隙間から四方八方に広がっていて、見上げると空は茜色に染まっていた。鳥居は輝く夕日を反射し、古いながらも輝いて見えた。小さな山の上にぽつんと佇む神社は、今日も静かに、にぎやかな町を見下ろしていた。

 いつからだろうか。

鳥居の上に腰掛け、夕焼けに照らされた町を眺めているのは。なんだか長い夢を見ていたような、いや、今も、見ているのかもしれない。ずっとこうしていたようで、今さっきからのような気もする。

どっちだっていい。どうだっていい。ずっとこうしていたい。何かに包まれているみたいで、心地いい。

 下の方で、がやがやと人が行き交っている。夕暮れ時は商店街がにぎやか。様々な人が夕飯の食材を買いに来たり、学校帰りの地元の学生が買い食いをしたり、老人たちが立ち話をしたり。山の上の神社から全体を見回しても田舎の町だけれど、生き生きとしている。

 ぼんやり眺めていた時だった。にぎやかな町の声に混じって、男の子の声がした。ちょっとかすれた、綺麗な声。
「ごめんごめん、遅くなって」


その時、かあんと頭を殴られた。この声を、私は知っている。自分に向けられた言葉ではない。ないけれど、殴られたように、動けなくなった。脳内で何かが叫んだ。
気づけば頬が濡れていた。
分からない。
なんで?なんで?なんで?なんでこんなに寂しいの?なんで目の前がぼやけるの?
 なんでこんなに、懐かしいの?


 ……あったかい。