その日、教室に一歩入った時から、いつもと違うな、と思った。

 目立つグループの子がはしゃいでいないし、中には今にも泣きだしそうな顔をしている女の子もいる。あちこちから「内(うち)浦(うら)さんが」とか「昨日の夜に容(よう)態(だい)が急変して」なんて言葉が聞こえてくる。

 内浦さんって、一年生の時に同じクラスだった内浦琉(る)衣(い)のことだろうか。グループも違ったし、当時はあまりしゃべったことがなかったけれど、いつも体育の授業を見学していた覚えがある。身体が弱い、って話も聞いたことがある。ここ数カ月は校内でも顔を見かけたことはなかったから、「容態が急変して」ってことは、まさか。

 不吉な想像に、身震いした。たとえ仲良くなかったとしても、大勢いるクラスメイトのひとりだったとしても、同じ学校に通ってる自分と同い歳の子がそんなことになるなんて、いたたまれない。


「もう知っている人もいるかもしれませんが、三組の内浦琉衣さんが、昨日亡くなりました」


 朝のホームルームで、担任が沈(ちん)鬱(うつ)な表情で口にした途(と)端(たん)、斜め前に座っている女子がわっ、と手で顔を覆(おお)った。内浦琉衣と仲が良かった子なのだろう。


 グループが違うし、とくに一年生の時の浅(あさ)倉(くら)梢(こずえ)の事件のことがあってからはあまり話すこともなかったけれど、私が知っている内浦琉衣は明るくて友だちが多い女の子だった。成績は良いほうじゃないし、特別美人ってわけでもないけれど、屈(くっ)託(たく)なくころころとよく笑ってて、いつもグループの中心にいた。離れたところから見ていた私の内浦琉衣の印象は、そんな感じ。


「内浦さんは、もともと心臓に持病があったそうです。三年生になってからはほとんど学校に来ることもなく、この三カ月はずっと入院していました。お通夜は明日の夜に行われるので、会場が決まり次第みなさんにもお伝えします」


 生徒の動揺を鎮めようとする担任の冷静な口調。それでも、斜め前の女子は泣き続けている。

 特に話したこともなかったけれど、仲が良いわけじゃないしどちらかというとよく知らない部類に入る子だけど、とりあえずお通(つ)夜(や)には行かなければ。

 斜め前の女子の泣き声は、まだ続いていた。ホームルームが終わり授業が始まっても、その子は心ここにあらずという感じで、泣き腫(は)らした真っ赤な目を宙に彷徨(さまよ)わせていた。