「久しぶりだなぁ」

「大きくなったねぇ」

 客席の方には当時の面々が続々と集まってきていた。

 今回の集まりは、里見が地道に連絡先を探して、かつ更新し続けていたからこそ実現したものだ。

「おっ、健じゃんか。すっかり大人になっちまって」

「お久しぶりです」

 飲み物をつぎながら、健が各テーブルを回っている。

「あれ、彼女はどうした? 結局あれからどうなったんだ?」

「まぁ、いろいろありましたよ」

 一番最新の話題として里見の結婚と妊娠やら、いろいろな思い出話に花が咲くが、やはり一番は当時のときわ園最後の最後で起こした大事件だ。

「えー、健君、会えたんでしょ? まさか……?」

「マジで? やっぱ10年は厳しかったか?」

「あの里見さんでも追いきれなかったんだもんね。大きくなった茜音ちゃん見たかったなぁ」

「あの子可愛かったもんなぁ。健にはもったいないってみんな言ってたんだぜ」

 どうやら、この中に集まったメンバーであの物語のラストシーンを知っている者はいないらしい。

 当然知っているチラリと里見に目を向けると、彼女も苦笑している。

「健、10年間の結果発表しろ」

「マジっすか?」

「当たり前よ。みんな気になって仕方なかったんだから」

 あちこちから結果発表のリクエストがコールされた。

「こりゃ、仕方ないですねぇ」

 普段は演奏喫茶モードに使うステージの上に上がる。

 今日はすっかり黒子に徹している菜都実も口元で笑いそうになるのを堪えながらマイクを渡してくれた。

「えーと、そうでしたね。もう11年も前になりますが、僕と、佐々木茜音ちゃんの事件では本当にご迷惑をおかけしました」

「そうだそうだ!」

「面白かったけどね」

 みんなの反応からも、あの事件はとっくに時効で、そもそも責められるようなものではなかったのだと。

「結論から言ってしまうと、僕には今、お付き合いをしている女性が居ます」

「おー、健もリア充かぁ」

「えー、茜音ちゃんかわいそう」

「相手の人の写真とかないの?」

「クリスマスにカミングアウトねぇ」

 健はそれらの声にはすぐに答えず、一度段を降りて店の奥に進んだ。

 この店の従業員の女性がドリンクや料理の用意をしていた。

「相手は……」

 その内の一人、一番奥にいて後ろを向いていた女性に近づいて耳元にささやくと、深めに被っていた三角巾をそっと外した。

 彼女の動きがすっと止まる。

 その中にしまっておいた三つ編みと長い髪が下に落ちて当時そのままに戻る。

「えぇ!?」

 その後ろ姿だけでも、ピンと来たメンバーが何人かいた。

「このお店で頑張っている……彼女です」

 エプロンも外して、後ろを向いていたその人物を振り返らせる。

「はぅぅ……。すっかりご無沙汰していますぅ」

 佳織が営業中は消しているサービスカウンター上の照明をつけた。

「あーっ!」

 顔を真っ赤に染めて頭を下げた人物の素性が分かったとたん、店内は拍手喝采の騒ぎになった。