「おまたせぇ」
「あ、来た来た。茜音! みんな待ってるぞ」
「へぇ?」
学校の正門のところで菜都実が茜音を見つけた。
「みんな写真撮りたがってるんだからさ」
「そうなのぉ?」
校内シンデレラとなった茜音だけでなく、いつも彼女のそばにいた二人というのもいつのまにか注目されるようになっていた。
「ほらほら!」
下級生だけでなく、教師側から声をかけられていたように、昨年夏休みの結果は前年度から引き継がれていた生徒会広報によって発表されていて、全校が知ることとなった。
同時に、直後の学園祭ではこの三人を中心に、実行委員からの課題を完璧に再現した展示を作り上げたことで、クラス展示の最優秀賞をも獲得している。
このことによって、片岡・上村・近藤の三人組の実力を知らない生徒はいなくなった。
中学までいつも苦汁を飲まされていたのが嘘のような高校3年生の後半だった。
「ありがとうございましたぁ!」
何組かのクラスメイトたちとの写真を撮り終えると、もう一度感慨深げに校舎の方を振り返る。
「どうしたん?」
「うん……、いろいろあったなぁって。わたしが初めて入学式と卒業式の両方が出来た学校だからなぁって思って……」
「そうか。茜音って小学も中学も転校続きだもんね」
佳織は茜音が転出した最初の中学校に在籍していたことを知って驚いていた。
僅か1ヶ月という期間、別のクラスだったこともあって、彼女の転校だけでなく存在すら知らなかったのも仕方ない。
それでも、もし当時出会うことが出来ていたら、そして茜音があの計画を当時から発動していたら……。
一番先に賛同できたし茜音も転校せずに済んだかもしれないと思っていた。
「ねぇ、茜音のタイと校章は?」
じっと振り返っていた茜音を菜都実が引き戻す。
「うん、欲しい子がいたからあげてきたよ。予備もあるし、そっちはちゃんと取っておく」
ようやく区切りがついたのか、茜音も家路へ歩き出す。
「どうするの? 今日はお店でお祝いでしょ?」
「ここからは直行しないとね。みんな待ってるんでしょ」
卒業式のあとは、ウィンディで内祝いをすることになっていた。これまでなかなか表に出てこなかったそれぞれの両親も呼ぶことにしている。
三人の希望で、貸し切りにはしない。常連客もいることを考えると、店は結構混雑してそうな気配だ。
「気合い入れていきますかぁ」
学校で時間を食ってしまったため、予定よりも遅れて店に駆け込んだときには、他の面々は到着していた。
「遅くなりましたぁ~」
店の一角を変更し、関係者のみのお祝いとしているが、マスターをはじめ、もともとウェイトレス係の三人が関係していることもあって完全にパーティーに集中できるわけでもない。あちらこちらから呼び声がかかる。
「みんな無事に卒業おめでとう」
マスターでもある菜都実の父親が料理を出してくれる。
「そんな、やりますよぉ」
「いいよ。今日は菜都実さんもお客さんだからね」
別の声が奥から聞こえた。
「ほぇっ? 健ちゃん!?」
思いがけない声が聞こえて振り返ると、カウンターの中にエプロン姿の健が立っていた。