一週間後、茜音と健、佳織の三人は打ち合わせてあったホテルに出向いた。

 そこにはすでに、片岡夫妻も到着しており、こちらも緊張の面持ちだ。

「大丈夫です。状況的に見ても、茜音が正しいのは間違いないです」

 佳織は今日までの時間で、先輩の弁護士たちに今回のケースを聞いて回った。

 実の姉弟だったとしても、茜音の父親は一方的に実家から縁を切られたこと。そこで自分にかかった保険や両親が自らの収入で建てた財産一式を「自分たちの一人娘に」と公的な遺言書をつけて相続させたのであれば、茜音が圧倒的に優位であるとお墨付きももらってきた。万一の時は先輩弁護士たちも力になってくれると。


 時間になって、ロビーに現れた一行。そこに初めて見た存在に茜音は緊張が体を走り抜けた。

 自分の両親と同じくらいの夫婦と自分と同い年くらいの女性。それにもう少し年下と思われる少年の四人。

 そうか、彼女が『あの服』を着るべきだった人物なのかと思う。よく見ると自分と似ている部分も多い。

 考えるまでもなく、彼女は自分とは従姉妹になるのだ。これまでの人生に雲泥の差はあれど……。

 展開から、あまり他人に聞かれたくないこともあるので、レストランでも個室を用意してもらっていた。

 簡単な自己紹介の後、話題は本題に入った。茜音の親権を移したいと。

「最初にお伺いしたいことがあります。なぜあの当時、これだけ多くの報道がされながら、茜音に声をかけなかったのでしょうか」

 新聞の記事をまとめたファイルを取り出して、テーブルの上に置く。

「お父さん……」

 普段は柔和な父親。それが声を押さえつつも厳しい口調で切り出した。

「茜音は、本当によくできた子でした。自分の置かれた状況をきちんと理解しており、里親である私たちに迷惑をかけたことはひとつもない。そんな子をあなた方は見捨てたのです。それが茜音に対するどんなに残酷な仕打ちだったのか、ご存知ではないでしょう」

「当時は私たちもこの子を育てながら、海外公演などもありまして。そこにもう一人を迎え入れることは出来ませんでした」

「そういった事情も承知しております。ですが、それならば、せめて頼れる身寄りがいると、誰かを通じてでも茜音に伝えてあげることが出来なかったのですか。いつか迎えに来てもらえるという希望すら持てず、孤独に耐えてきた。私たちの家で初めて三人で眠ったとき、茜音は一晩中温もりを求めてきました。私たちは自ら子どもを授かることは出来ません。ですから茜音を実の娘として育て上げました。そして、ようやく一人の女性として歩き出せるところまできた。それを皆さんは大人の事情でまた蒸し返そうというのですよ」

 茜音は父親を見上げた。大人の事情。そう、佳織と一緒に調べてくれていたのだ。

 茜音が莫大な財産を受け継いでいること。そしてもう茜音は成人しているから養育義務は負わなくて済むこと。その上で養育者という立場であれば、弟の残した財産の一部を養育費として請求できると。

「そ、それは片岡さんでも同じでは?」

 言ってしまった。つまり、その計画を認めてしまったと同じだ。

 茜音の表情が一気に堅くなったのが分かった。