「姐さんっ、
 移動教室、お疲れ様です‼
 教材、お持ちいたします‼」


 驚きや困惑。
 それから、いろいろなことを思ってしまい。
 頭と心の中がグルグルと忙しく回っている。

 そんなとき。
《ピンク・ラビット》のリーダー、(あや)さんの隣にいる女子。
 その女子()が持ってくれようとしている。
 私が持っている教材を。


 そのことに驚いた私は言ってしまった。
 慌てた感じで「だっ……大丈夫ですっ」と。

 それでも。
「なんて謙虚なお方っ。
 どうか遠慮なさらず」と言い。
 再び持ってくれようとしている。
 私が持っている教材を。


「ほっ……本当に大丈夫ですっ」


 持ってくれようとしている、教材を。

 その気持ちは本当にありがたい。
 そう思っている。



 だけど。
 それと同じくらい。
 ものすごく困ってしまっている。


 教材を他人(ひと)様に持ってもらうなんて。

 私は普通の高校生なのにっ。


「あっ……あのっ、
 斐さん……の方からお願いしてもらってもいいですか?
 教材は自分で持って行くので大丈夫です……と……」


 自分の気持ちを伝えたくて。
 強すぎた、その気持ちが。

 そのせいか。
 伝えてしまった、思わず。
 斐さんに。


 私の教材を持ってくれようとしている女子。
 その女子()に斐さんの方から私の気持ちを伝えてくれれば。
 その女子()も納得するかもしれない。
 そう思ったからというのもある。


「姐さんっ‼」


 そう思っていると。
 突然、斐さんが大きな声を出した。

 そして前のめりになって私に近づいた。
 だから斐さんの顔が一気に近くなった。


 ただでさえ斐さんは怖い雰囲気。

 それなのに。
 近づかれたら、その迫力は倍増してしまう。





 斐さん、どうしたのだろう。
 突然、大声を出して顔を近づけて。

 もしかして。
 何かまずいことを言ってしまったのだろうか。


 恐怖と不安。
 それらが頭と心の中でグルグルと激しく回っている。

 そのせいか。
 出てきてしまっている、全身に嫌な汗が。



 出ない、声も。
 あまりの恐怖に。


 確かに。
 声が出たところで何を言えばいいのか。
 全くわからないけれど。