そういえば。
どんなことをするのだろう。
暴走族の人たちの勝負って。
まさかっ。
殴り合いをするとか⁉
「あのっ、
勝負って、どんなことをするんですかっ」
どうしようっ。
本当に殴り合いだったら。
「知らない方がいいと思うよ。
茉蕗ちゃんが『白龍』の総長の彼女じゃないのなら」
海翔さんっ。
そんなふうに言われたら。
余計に考えてしまうっ、良からぬことをっ。
「そうだ、
茉蕗ちゃん、
楽しみにしてなよ」
海翔さん、満面の笑み。
「『白龍』の総長、
あっくんや俺のように超イケメンだから」
「自分で言うな」
北邑さん、静かなツッコミ。
「いいじゃん、
あっくんだって本当は自分のことイケメンだと思ってるでしょ」
「うるせぇ、
海翔、少し黙ってろ」
「照れ屋さんなんだから、あっくんは」
“ガチャッ”
聞こえた、今。
ドアを開ける音。
「来たね、いよいよ」
気付いた、海翔さん。
来たっ、ついにっ。
『白龍』の総長っ。
えぇっ⁉
『白龍』の総長さんの正体って……‼
「待っていたぞ、神賀」
龍輝くん、だった―――っ⁉
「茉蕗の手足を縛っているものを解け」
睨んでいる、ものすごい勢いで。
龍輝くんは北邑さんのことを。
「それはできない」
見ている、北邑さんも。
厳しい表情で龍輝くんのことを。
って。
あれっ?
解いてくれないのっ?
「解かなければ勝負はしない」
出してくれた、龍輝くんが条件を。
北邑さんの返答は?
「解いてやれ」
よかった、やっと解放される。
「オッケー」
解いてくれたのは海翔さん。
手足が自由になる。
それは。
本当にありがたい。
そう感じている、しみじみと。
「さっさと(勝負を)済ませて
連れて帰る、茉蕗のことを」
龍輝くんの厳しい表情。
今まで見たことがない。
いつもやさしくて穏やかだから。
「神賀、
知ってるのか、向陽茉蕗のこと」
「茉蕗は大切な存在だ」
「向陽茉蕗は神賀のことを知らないと言っていた」
「……話してなかったからな、
茉蕗に俺の正体を」
「話してなかったのか、
大切な存在なのに」
「…………」
「まぁ、いい。
神賀の事情なんて知ったことじゃねぇ。
さっさと行くぞ」
「あぁ」
始まってしまう、とうとう。
龍輝くんと北邑さん。
二人の勝負が。
「茉蕗、
帰ってくる、必ず。
勝って」
こんなときでも。
見つめてくれる、龍輝くんは。
やさしい表情で。
私は。
どんな表情をすればいいの?
何て声をかけたらいいの?
本当は。
してほしくない、勝負なんて。
「神賀龍輝は知ってるみたいだね、
茉蕗ちゃんのこと」
部屋を出て行った、龍輝くんと北邑さん。
そのあと。
海翔さんが口を開いた。
「茉蕗ちゃんは?
知ってるの? 神賀龍輝のこと」
「……はい。
知っています」
「言ってないんだね。
神賀龍輝は茉蕗ちゃんに。
自分の正体」
そう。
教えてもらっていない。
龍輝くんから。
「……はい」
なんだろう。
複雑な気持ち。
「そうか。
なんで茉蕗ちゃんに言わなかったんだろ」
* * *
どれくらい経ったのだろう。
「緊張し過ぎていると身体に良くないよ。
これ飲んでリラックスしなよ」
気付いていた、海翔さんは。
「ありがとうございます」
受け取ったものの。
飲むことはできそうにない。
「大丈夫だよ、茉蕗ちゃん。
あっくんも神賀龍輝も慣れてるから」
和らげようとしてくれている。
海翔さんは。
「時間だって通常通り。
長いときは本当に長いから」
やっぱり。
海翔さんは余裕な感じ。
「今日はこじんまりとしているけど、
全員参加のときなんか激しいのなんのって。
パトカーのサイレンが聞こえてきたときなんか、
みんな猛スピードで逃げてさ」
えぇっ⁉
パトカーのサイレンっ⁉
海翔さんっ。
笑顔でサラッと言ったけれどっ。
何をどのようにしたらパトカーが来てしまうのっ⁉
“ガチャッ”
海翔さんの言葉の内容に驚き過ぎて。
頭と心の中がバタバタと忙しくなっている。
そんなとき。
聞こえた、ドアを開ける音が。
ということは―――。
終わったんだ、勝負が。
帰ってきてくれた、龍輝くんが。
だけど。
怖い、龍輝くんの姿を見ることが。
「総長は?」
「北邑は
もう少しあとで帰るそうだ」
龍輝くんと海翔さんの会話。
聞いている、下を向いて。
「ただいま、茉蕗。
帰ろう」
龍輝くんの穏やかでやさしい声。
「おかえり、龍輝くん」
大丈夫、きっと。
龍輝くんは。
そう思いながら。
見る、龍輝くんの顔を。
そこには。
いつも通りの龍輝くんの姿が。
そのことが。
嬉しくて。
ほっとして。
「ごめんな、
心配かけて」
龍輝くんは私の頭をやさしくポンポンとする。
「こんなところじゃなくて、
帰ってからイチャイチャしたら?
はい、これ茉蕗ちゃんの荷物」
海翔さんっ、何を言っているのっ⁉
していないよっ、イチャイチャなんてっ。