「みんな席に着きなさい。
 ホームルーム始めるわよ」


 そんな恐怖や不安。
 それらが頭や心の中を支配し始めている。

 そのとき。
 担任の新垣(あらがき)先生が教室に入ってきた。


「あらっ、
 今日はいつもの向陽(ひなた)さんね。
 昨日は驚いたわよ」


 言っている、新垣先生も。
 皆と同じようなことを。

 そんな新垣先生の表情。
 見える、ほっとしているように。


 昨日の私は。
 皆が驚き戸惑うほど変貌していた。
 そういうことなのだろうか。







 昨日は私の中で一体何が起こっていたのだろう。


 なぜ、できないのか。
 昨日のことを思い出す。
 そうすることが。



 思い出す、それを。
 そうすることができたとき。
 どんな心境になってしまうのだろう。





 思い出したい。

 だけど。
 それを恐れている自分がいる。
 それも確か。



 本当は。
 いいのかもしれない。
 このまま忘れていた方が。


 だけど。
 それはそれで、かなりの不安を感じる。

 周りの人たちが変貌していた私のことを知っていて。
 私自身がそれを知らない。
 そういうことになってしまうから。



 そう考えると。
 やっぱり思い出さなくてはいけないのかもしれない。