「龍輝くん、スマホ鳴ってる」
おっ、これはっ。
グッドタイミング(?)。
私と龍輝くん。
お互いのスマートフォン。
入れ替わった、お互いの姿が。
そのときは確認してもいい。
そういう話になっている。
なので。
確認する、画面を。
【向陽茉蕗】
そう表示されている。
ということは。
龍輝くんからの着信。
「……もしもし」
スマートフォンに耳を当て。
出す、声を。
『茉蕗……?』
やっぱり。
聞こえてくるのは私の声。
変な感じだな、なんだか。
だけど。
なぜか安心する。
『『うん』と言うだけでいいから
俺の話を聞いてほしい』
落ち着いてくる、少しずつ。
龍輝くんの話を聞いていると。
そう思い感じながら。
「うん」
そう返事をする。
『今の俺と茉蕗の状況は把握してるよな?』
「うん」
『茉蕗が今いるところは俺の部屋だ』
なんだろう。
初めての感じがしない。
龍輝くんの部屋。
やっぱり。
今回が初めてではないから?
私と龍輝くんの入れ替わりが。
『今、茉蕗と一緒にいる奴ら、
桐生聖夜と諏藤來空と平岡梨央だけど、
覚えてるか?』
思い出した。
龍輝くんのスマートフォンの画像。
そこに写っていた人たち。
桐生聖夜くんは高校三年生。
そんな桐生くん。
見えた、大学生くらいに。
とても落ち着いていて。
見える、大人っぽく。
それから。
目鼻立ちは整っていて。
モデル並みの美少年。
街中を歩いていたら。
皆の目を引くだろう。
諏藤來空くんは高校二年生。
彼も人の目を引くくらいの美少年。
平岡梨央くんは高校一年生。
やっぱり彼も注目の的になるくらいの美少年。
そんな桐生くんと諏藤くんと平岡くん。
彼らは龍輝くんの幼なじみで親友。
『茉蕗、
俺との通話が終わったら、
俺の部屋から出てほしい。
聖夜たちには
『コンビニに行ってくる』
とでも言って』
助かります、龍輝くん。
事情を知らない桐生くんたち。
彼らと一緒の部屋にいるのは厳しいと思っていたから。
そう思いながら。
頷く、「うん」と。
今。
座っている、ベンチに。
場所は。
龍輝くんの家の近くの公園。
公園で。
待っている、龍輝くんのことを。
「茉蕗……?」
待っている、しばらく。
龍輝くんのことを。
そのとき。
聞こえた、声が。
「……龍輝くん……?」
やっぱり変な感じ。
私の目の前には。
私の姿になっている龍輝くんが。
そうして私も。
呼んでいる、龍輝くんの声で龍輝くんの名前を。
それは。
不思議な感じがする。
「……なんか不思議な感じがするな。
入れ替わったお互いの姿を直接見るというのは」
龍輝くん(私の姿)は少しだけ苦笑い。
「……そうだね」
私も。
少しだけ苦笑い。
「隣、座ってもいいか?」
「もちろんだよ」
「サンキュー」
「思ったより早かったな、
俺たちの入れ替わり」
「そうだね」
本当だ。
早かったなぁ、二回目。
「お兄ちゃん、
ボール取って」
いつ元に戻るのだろう。
どうしよう、こんなことが頻繫に起こってしまったら。
そう考えると。
かなり参ってしまう、精神的に。
そんな気持ちになっているとき。
聞こえた、誰かの声が。
その声に反応するように見ると。
走ってくる、小学生低学年くらいの男の子が。
転がってくるボールを追いかけて。
「茉蕗、
あの子『ボール取って』って言ってる」
そうだった。
周りから見たら。
私が龍輝くん。
そのことに気付き。
拾う、転がってきたボールを。
大きさはドッチボールくらい。
ボールを受け取った男の子は。
「お兄ちゃん、ありがとう」
そう言って。
走って行った、友達のところに。
友達のところに戻って行った男の子。
その子のことを見届け。
再び座る、ベンチに。
「不思議な感じだな、なんか。
茉蕗が『お兄ちゃん』って呼ばれるのって。
でもまあ、そうなるのか、
周りから見たら」
そうだね。
思わないよね、周りの人たちは。
私と龍輝くんが入れ替わっているなんて。
「あのさ、茉蕗。
入れ替わりのこと、聖夜たちに話そうと思う」
龍輝くんの言葉。
驚いた、ものすごく。
「聖夜らは
すげぇ信頼できる」
それでも。
伝わってくる、ものすごく。
龍輝くんの思いが。
「だから、
聖夜らに助けてもらおう。
俺と茉蕗だけで抱えるのは限界があると思う」
確かに。
龍輝くんの言う通り。
「信頼できる他人たちに
俺と茉蕗のことを知ってもらっている。
それだけで心強いと思う」
精神的に強そうな龍輝くん。
そんな龍輝くんも。
平気なわけではない。
抱えている、本当は。
心配や不安を。
「俺にとって信頼できる他人たちは、
聖夜と來空と梨央だ」
信頼できる他人がいる。
それは素敵なことだと思う。
「家族のことも、もちろん信頼している。
だけど家族には逆に話しづらい。
心配させたくないという気持ちもあるしな」
確かに。
「一方的に話を進めてしまったけど、
俺としては、そうしたいと思った」
「いいと思う」