「昨日のことだけど、
あれは驚いたなんてものではなかったよな」
知っているんだ、神賀くんは。
昨日、何があったのか。
これは。
知るチャンス。
「あのっ」
「どうした?」
「昨日、何があったの?」
「え?」
「覚えてないの、
昨日、何があったのか」
「マジか」
「うん、マジ」
「説明を長くすると
ややこしくなるし混乱すると思うから
単刀直入に言う」
緊張してきた。
何を言うのだろう、神賀くん。
「昨日、
俺と、向陽茉蕗は入れ替わっていた」
え?
「……どうした?
大丈夫か?」
神賀くん。
混乱しているよ、単刀直入に言われても。
「……それは……
確かなことなの……?」
精一杯、そう言うことが。
「あぁ、確かなことだ。
昨日、俺は向陽茉蕗の姿で過ごしていた。
向陽茉蕗が通っている学校にも行った」
神賀くんが言っていること。
それが本当だとすれば。
昨日、先生や生徒たちが見ていたのは。
心が神賀くんだった私、ということになる。
「どんな感じだ?
少しは思い出せそうか?」
「……う~ん、
言われてみれば、
昨日、誰かになって過ごしていたような……」
「それは、
少し思い出したということか?」
「というより、
夢だと思っていたから……」
湧かない、まだ実感が。
「はっきり思い出せないのは仕方がない。
それより、今から打ち合わせをしたいと思う」
「打ち合わせ?」
「この入れ替わり。
一回で済むと思うか?」
「え?」
「また同じことが起こってしまうかもしれないだろ」
「……確かに、
そうかもしれない」
「再びそうなってしまったときに
混乱しないで少しでも落ち着いて行動が取れるように
そのための話し合いは必要だと思う」
「そうだね」
そうして。
始まった、打ち合わせが。
主な内容は。
お互いの生活や人間関係など。
それらの情報を交換する、差し支えない程度に。
それから。
交換した、連絡先を。
何かあったときに連絡が取れるように。
「せっかくだから
お茶でもしないか」
打ち合わせが終わり。
神賀くんがそう言った。
「うん、そうだね。
お茶しよう」
ということになり。
私と神賀くんはカフェへ。
「今朝、
言われたよ、クラスメートたちに。
昨日の私の雰囲気、かなり違ってたんだって」
「まぁ、いいんじゃないか。
気分転換ということにしておけば」
「じゃあ、
そうしておく」
神賀くんとお茶をしているところ。
「あっ、それから、
あの《ピンク・ラビット》に物申すなんて、
神賀くん、恐いもの知らず?」
「《ピンク・ラビット》?
あぁ、あの五人組の女子たちのことか。
あいつら、通行の邪魔してたから注意しただけだ」
「……なるほど。
すごいね、やっぱり神賀くんは」
「龍輝。
そう呼んで、茉蕗」
「……うん」
神賀く……龍輝くんは。
今日、初めて会った人。
本当なら。
警戒するはず。
話をすることも連絡先を交換することも。
それなのに。
すんなりとできている、それらの行動。
そのことは。
本当に不思議。
そう思う。
「――き」
え……?
……声……?
「龍輝っ‼」
入ってきた、耳に。
誰かの迫力のある声が。
だから。
驚いた、ものすごく。
「どうしたんだ、龍輝。
急に意識を失うように眠ったから驚いただろ」
失う?
意識を?
そういえば。
座っていたはず、今まで。
図書館内にある席に。
今日は土曜日。
学校も休み。
なので。
来ていた、図書館に。
それなのに。
どうしたのだろう。
どう見ても。
ここは図書館の中ではない。
ここは一体どこなの?
「もう大丈夫か?
どこも悪いところはないか?」
それに。
この人は誰なの?
「……?
何も返答がない。
もしかして龍輝くん、
意識を失うふりをして
俺たちのことを驚かせたとか?」
この人も誰?
「龍輝くんはそんな悪ふざけはしないよ、絶対」
そして。
この人も誰なの⁉