「茉蕗ちゃんが『白龍』の総長と一緒に歩いていたところを」
出てこない、声が。
驚き過ぎて。
海翔さんの言葉に。
私が『白龍』の総長さんと⁉
有り得ないっ、そんなこと。
私と『白龍』の総長さんは知り合いではないのにっ。
やっぱり。
人違いをしている。
海翔さんや北邑さんは。
『白龍』の総長さんと一緒に歩いていた女性。
その人は私に似た人なのだろう。
「俺たちのようなチームの間では
『白龍』の総長は女の子に関心がないことで有名なんだ。
とはいっても男子に興味があるとか、そういう意味ではないんだけど。
とにかく、その『白龍』の総長が女の子の君と一緒に歩いているということは、
君は『白龍』の総長にとって特別な存在、
つまり彼女なのではと思ったということなんだ」
伝えなくては、早く。
人違いということを。
「だけど彼女じゃないんだもんね
茉蕗ちゃんは『白龍』の総長の。
それに、そもそも知らないんだよね、『白龍』の総長のこと」
私が口を開く前に海翔さんがそう言ってくれた。
「ということは
茉蕗ちゃんだと思っていた人は別人だったということになるね」
正解だと思う。
海翔さんが言っていることは。
だけど。
『白龍』の総長さんと一緒に歩いていた女性。
その人を私と間違えた。
だからといって、なぜ連れ去る必要があったのだろう。
私のことを人違いしなかったら。
その女性が連れ去られていたことになる。
私にしてもその女性にしても。
連れ去る必要はないのでは。
そういう思いが頭の中でグルグルと駆け回っている。