小笠原先輩は、十月生まれのてんびん座です。
聞いた時、小笠原先輩から「いかにもって感じでしょ?」と言われて、さっぱり分かりませんでしたが「そうですね」と合わせました。その後、わたしが三月生まれのうお座だと教えたら「分かるー。なんかうお座っぽいよね」と言っていたので、誰がどの星座だろうとそれっぽく思えるだけなのかもしれません。ちなみに血液型はAB型です。こっちはすごく小笠原先輩っぽいと思います。
そんな小笠原先輩は誕生日への思い入れが強く、秋が来ると「俺の季節が来た」と感じるそうです。なんでも小さい頃はお母さんが誕生日をすごいテンションで祝ってくれて、生まれたことで世界平和に貢献したと本気で思っていたとのこと。その話を聞いて、わたしは「なんて素敵なお母さんなんだろう」と思いました。ですが今はちょっと違う感想も抱いています。
後続が困るので、少しは手加減して欲しかったです。
「いやー、良かったねー。マジ良かった」
映画デートの後に入った喫茶店のテラス席で、ひたすら「良かった」を繰り返す小笠原先輩に相槌を打ちながら、わたしはずっと小笠原先輩の誕生日のことを考えていました。映画に誕生日のお祝いをするシーンが出て来たからです。そのシーンを観て小笠原先輩の誕生日が一か月後に迫っていることと、小笠原先輩が自分の生誕と世界平和が結びつくほどの祝福を受けて来た人であることを思い出しました。ちなみに映画は小笠原先輩イチオシの少年漫画を原作としたアニメ映画で、誕生日をお祝いされたキャラクターはその後にやられました。死亡フラグというやつです。
「原作未読勢なんだよね。どうだった?」
「……面白かったです。原作読みたくなりました」
「本当に? 本当なら借すよ?」
「本当ですけど……嘘くさいですか?」
「いや、なんかテンション低いから」
指摘されてハッと気づきました。確かに小笠原先輩の目線だと、映画が肌に合わなくて気分が沈んでいるように見えます。
「無理しなくていいよ。合う合わないはあると思うし」
「無理なんかしてないです。ただ、別のことが気になって……」
「別のこと?」
「はい。小笠原先輩、誕生日に何が欲しいですか?」
小笠原先輩が目を丸くします。当たり前です。意味が分かりません。話をあちこちに飛ばす小笠原先輩の癖が伝染しています。
「映画に誕生日のシーンがあったじゃないですか。あれを見て、小笠原先輩の誕生日が近いのを思い出したんです」
「まだ一か月先だよ?」
「もう一ヵ月先じゃないですか。すぐですよ」
「そうかな」
小笠原先輩が首をひねりました。そしてウッドテーブルに片肘をつき、頬杖をついて中空を見上げます。
「でも、欲しいものって言われても困るなあ。特にないし」
「本当ですか?」
「だってすぐ死ぬのに、モノなんか貰ってもしょうがないじゃん」
あっさりとした言い方が、わたしの胸を深く抉りました。小笠原先輩は平然と話し続けます。
「あ、でもやりたいことならあるかも」
「何ですか? 出来ることなら何でもしますよ」
「んー、でも、さすがになー。俺らだけの話じゃなくなっちゃうし」
「なら、他の人にも話をすればいいんですよ」
小笠原先輩の視線がわたしに合わさりました。わたしは声に力を込めます。
「小笠原先輩がやりたいことをやるのが一番大事です。何なら誕生日まで待つ必要ないですよ。今すぐやりましょう。何がしたいんですか?」
嬉しそうに、小笠原先輩がくしゃりと顔を潰して笑います。それを見てわたしも嬉しくなりました。何を言われても驚かずに受け止めようと決意し、心の準備を整えて返事を待ちます。
わたしの密かな決意は、あっけなく崩れ去りました。
「同棲」
聞いた時、小笠原先輩から「いかにもって感じでしょ?」と言われて、さっぱり分かりませんでしたが「そうですね」と合わせました。その後、わたしが三月生まれのうお座だと教えたら「分かるー。なんかうお座っぽいよね」と言っていたので、誰がどの星座だろうとそれっぽく思えるだけなのかもしれません。ちなみに血液型はAB型です。こっちはすごく小笠原先輩っぽいと思います。
そんな小笠原先輩は誕生日への思い入れが強く、秋が来ると「俺の季節が来た」と感じるそうです。なんでも小さい頃はお母さんが誕生日をすごいテンションで祝ってくれて、生まれたことで世界平和に貢献したと本気で思っていたとのこと。その話を聞いて、わたしは「なんて素敵なお母さんなんだろう」と思いました。ですが今はちょっと違う感想も抱いています。
後続が困るので、少しは手加減して欲しかったです。
「いやー、良かったねー。マジ良かった」
映画デートの後に入った喫茶店のテラス席で、ひたすら「良かった」を繰り返す小笠原先輩に相槌を打ちながら、わたしはずっと小笠原先輩の誕生日のことを考えていました。映画に誕生日のお祝いをするシーンが出て来たからです。そのシーンを観て小笠原先輩の誕生日が一か月後に迫っていることと、小笠原先輩が自分の生誕と世界平和が結びつくほどの祝福を受けて来た人であることを思い出しました。ちなみに映画は小笠原先輩イチオシの少年漫画を原作としたアニメ映画で、誕生日をお祝いされたキャラクターはその後にやられました。死亡フラグというやつです。
「原作未読勢なんだよね。どうだった?」
「……面白かったです。原作読みたくなりました」
「本当に? 本当なら借すよ?」
「本当ですけど……嘘くさいですか?」
「いや、なんかテンション低いから」
指摘されてハッと気づきました。確かに小笠原先輩の目線だと、映画が肌に合わなくて気分が沈んでいるように見えます。
「無理しなくていいよ。合う合わないはあると思うし」
「無理なんかしてないです。ただ、別のことが気になって……」
「別のこと?」
「はい。小笠原先輩、誕生日に何が欲しいですか?」
小笠原先輩が目を丸くします。当たり前です。意味が分かりません。話をあちこちに飛ばす小笠原先輩の癖が伝染しています。
「映画に誕生日のシーンがあったじゃないですか。あれを見て、小笠原先輩の誕生日が近いのを思い出したんです」
「まだ一か月先だよ?」
「もう一ヵ月先じゃないですか。すぐですよ」
「そうかな」
小笠原先輩が首をひねりました。そしてウッドテーブルに片肘をつき、頬杖をついて中空を見上げます。
「でも、欲しいものって言われても困るなあ。特にないし」
「本当ですか?」
「だってすぐ死ぬのに、モノなんか貰ってもしょうがないじゃん」
あっさりとした言い方が、わたしの胸を深く抉りました。小笠原先輩は平然と話し続けます。
「あ、でもやりたいことならあるかも」
「何ですか? 出来ることなら何でもしますよ」
「んー、でも、さすがになー。俺らだけの話じゃなくなっちゃうし」
「なら、他の人にも話をすればいいんですよ」
小笠原先輩の視線がわたしに合わさりました。わたしは声に力を込めます。
「小笠原先輩がやりたいことをやるのが一番大事です。何なら誕生日まで待つ必要ないですよ。今すぐやりましょう。何がしたいんですか?」
嬉しそうに、小笠原先輩がくしゃりと顔を潰して笑います。それを見てわたしも嬉しくなりました。何を言われても驚かずに受け止めようと決意し、心の準備を整えて返事を待ちます。
わたしの密かな決意は、あっけなく崩れ去りました。
「同棲」