私達はあれからすぐ家に帰り、私は自分の部屋に篭った。
私は、本気で家族に戻ることを信じていたわけでは無かった。しかし、あの光景を見てしまった以上、家族に戻るしかありえない。
私は自分を納得させるために、私が小さかった頃のアルバムをお母さんの部屋にある本棚から取り出し、桜の木の下で撮った家族写真を見に行った。
そしてそのまま、私はアルバムを片手にいつのまにか寝てしまった。
案の定、朝起きると、お母さんと元父親が私の起きてくるのを2人で待っていた。もっともな光景だから、自分の中に悲しい気持ちは起こらない。私は、覚悟を決めたと言うより、諦めて2人の前に座った。
すると、やはり予想通りの言葉が返ってきた。
「ちづる。私達、もう一度やり直してみようと思っているの。私、お父さんと再婚したい」
「ちづると奏多には悪いことをした。俺達4人が家族に戻るチャンスを母さんと父さんにくれないか?」
お母さんと元父親はそう言って、真剣な目をこちらに向けてくる。
なんで、2人が再婚するのに私達の許可が必要なの?好きなんだったら勝手に再婚してよ。こっちは、ただでさえその話を聞くのが不愉快なのに。
それから、私は複雑な気持ちでにこっと笑った。
「いいよ、私も家族に戻りたい」
私の言葉を聞いたお母さん達は、すぐにポロポロと泣き出してしまい、「ありがとう」と頭を下げた。
それからはあっという間だった。再婚するのにはそんな時間はかからない。ただ、同棲も今後していこうと思っているから、準備は大変そうだったけど。
3週間が経った。
おおよそ、家の中の簡易的なリフォームが終わり、2人が住み始めたが、特に今までの生活と変化はなかった。
奏多のことこれ以上思っていても辛いままだろうな。私が言うのも何だけど、奏多のことしっかり諦めないと。私は奏多の姉なんだから。頭ではそう思っていても、私の心は諦めようとしなかった。
再婚したが、私は苗字を変えていなかった。苗字も同じなんて気持ち悪いから。
「げ、ちづー雨降ってきたよ?」
同じクラス、同じ部活の親友。坂本 夏樹と昼休みに話していると、外から雨音がしだした。
「え、ほんとじゃん。最悪。髪ボサボサになっちゃうよ」
「やだねー。朝は晴れてたのに」
「ほんと、やだわ。あ、夏樹傘ある?私、持ってくるの忘れた気がする」
「あー確か折りたたみがあった気がするんだけど…ちょっと待ってね」
「うん。ありがと」
夏樹とは高校に入ってから親友になった。クールで背の高い夏樹は男子だけで無く、女子も虜にするほど。実は、ファンクラブもあるみたい。
夏樹がリュックの中をごそごそと探している間、私は雨が降っている外をぼーっと眺めていた。はぁ、雨って匂いも嫌いなんだよね。2人が出て行ったのも雨の日だったし。
「あった!!2本あるからはい、どうぞ。それとも私と相合傘して帰るー?」
「えー…夏樹と相合傘?でも、帰る方向逆じゃん」
「確かに!!でも、滅多にないチャンスだよ?今ならお買い得でっせ。お嬢ちゃん」
なにそれー、あははと2人でくだらないことを言いながら、笑っていたが、
「ちづる、傘ある?俺ないんだけど」
たまたま同じクラスになってしまった奏多が私達に声をかけてきた。
「奏多。私も夏樹に傘、借りようと思ってて」
学校のみんなには私達が姉弟であることを隠してはいるが、奏多の距離感のせいで付き合っているのではと噂されることがかなり多い。たぶん、奏多は誰にでもこんな感じだから大丈夫とは思うけどね。
「じゃあ、俺と一緒に帰ろ。傘入れてよ」
「え?奏多走って帰ればいいじゃん。足、早いし」
「あ、あの。上原くん!!よ、よかったら私の傘、どうぞ!!ちづと私は2人で帰るので」
いつもクールな夏樹が若干取り乱しながら、折りたたみ傘を奏多に差し出していた。珍しい。こんなこともあるんだとこの時の私は呑気にそう思っていた。
「いいよ、坂本さん。俺、ちづると帰る方向同じだし。でも、結局坂本さんの傘か。ありがとう。坂本さん」
そんな夏樹の提案を断り、私と2人で帰ることを選択した奏多にちょっとだけ期待してしまい、顔が熱くなる。
私は顔が赤いことを誤魔化すように声を大きくして奏多に言った。
「勝手に決めないでよ。まあ別にいいけどさ。昇降口で待っててよ?」
「ありがと。じゃあ、また」
奏多はそのままいつものグループの方へ向かって行った。何で私はもうちょっと可愛い言い方できないんだろう。奏多のことになるとすぐに後悔してしまい、はぁっとため息をついてしまった。
「あぁ、ごめんね。夏樹。勝手に傘借りること決めちゃって…」
そう言いながら、夏樹の方を見て私は驚いた。彼女の表情が悲しそうだったから。
「夏樹?どうしたの?」
「…え、あ、いや、何が?」
「いや、夏樹がなんか悲しそうだったから」
「…何でもないよ。大丈夫」
「絶対嘘じゃん。私じゃダメかな?よかったら話してほしい」
私が言った瞬間、一瞬夏樹が複雑な表情を浮かべた気がしたけどまた、いつも通りの表情に戻った。
「じゃあ、今日の放課後。5分だけ、付き合って」
「うん、わかった」
夏樹の考えていることはわからなかったけど、なんとなく強い力を感じた。
そして4時間が経ち、放課後になった。
部活に行く人は部活に行き、家に帰る人は家に帰って行ったので教室は夏樹と私の2人っきりになる。
2人っきりになって5分くらい経ったが、夏樹は口を開かなかった。だから、我慢できずに私から声をかけた。
「夏樹?無理に言わなくて良いんだよ。今日が嫌なら別の日でも」
夏樹は、顔を上げて私の方を見ながらゆっくり言う。
「いや、言わせて。私ね」
夏樹は止まった。ほんの10秒ほど。そして、私はその10秒の間で嫌な予感がした。自分から言い出したくせに、聞きたくないという気持ちがどんどん溢れてくる。何で何だろう。
「私もね、上原くんのことが好きなんだ。ごめんね、ちづ」
あー、そう言うことか。ほんと、私の嫌な予感はことごとく的中する。
「え、なんで謝るの?」
震える声を頑張って抑えながら、落ち着いた声で夏樹に言う。
「だって、ちづると上原くんって付き合ってるんでしょ?親友の彼氏を好きになるなんて最低じゃん」
段々と涙声になる夏樹を見てられなくて、思わず私は夏樹をそっと抱きしめてしまった。
夏樹は、驚いた声で言った。
「ちづ?どうしたの?」
「何でもない。何でもないよ。ごめんね、夏樹の気持ちに気づかなくて。ずっと辛かったよね。大丈夫、私達付き合ってないから。はっきりしなくてごめんね」
やっぱり私の思いは誰かを必ず不幸にするんだな。早く諦めよう。私は奏多の姉なんだから。
結局、夏樹の相談だったのに私が励まされてしまった。
「ちづ、落ち着いた?私の気持ち、聞いてくれてありがとう。ちづの優しいところほんと大好きだよ」
「はい、傘。上原くん待ってるんでしょ?」
こんな状況でも、自分以外のことを優先して考えられる夏樹の方が優しくて強いよ。尊敬する。
「でも…」
「いいから、早く行って。ね?お願い」
夏樹の1人にしてほしいと言う無理矢理な笑顔を見てしまって思った。私には夏樹を笑顔にすることはできないんだな、と。
「わかった。ごめん、ありがとう」
そのまま、私は夏樹から傘を受け取り、振り返らずに昇降口まで走った。途中涙が溢れたけど、気にせずに走り続けた。
「ちづる、どうしたの?」
昇降口に着いてすぐ、奏多の声が耳元で聞こえた。いつの間にか昇降口に着いていたみたいだ。私は、奏多の声を聞こえてないふりしてそのまま、雨の降っている外へ飛び出した。傘をささずに。
「ちづる!!何やってんの!!」
奏多は、雨が降る中飛び出した私を追いかけてグイッと屋根のあるところまで無理矢理引っ張った。
「ほら、早くこっち来て!!大丈夫?何があったの?」
優しいな、奏多は。そして、温かい。でも、今は奏多と居たくない。早く、この場から離れたかった。
「大丈夫、大丈夫だから!!お願い、放っておいて」
「あ、あとこれ傘。あげる。先帰ってて。私、用事、できたから」
傘を無理矢理奏多に預けて、私はまた走って昇降口から人の滅多に来ない第二理科準備室へ逃げた。
私は、本気で家族に戻ることを信じていたわけでは無かった。しかし、あの光景を見てしまった以上、家族に戻るしかありえない。
私は自分を納得させるために、私が小さかった頃のアルバムをお母さんの部屋にある本棚から取り出し、桜の木の下で撮った家族写真を見に行った。
そしてそのまま、私はアルバムを片手にいつのまにか寝てしまった。
案の定、朝起きると、お母さんと元父親が私の起きてくるのを2人で待っていた。もっともな光景だから、自分の中に悲しい気持ちは起こらない。私は、覚悟を決めたと言うより、諦めて2人の前に座った。
すると、やはり予想通りの言葉が返ってきた。
「ちづる。私達、もう一度やり直してみようと思っているの。私、お父さんと再婚したい」
「ちづると奏多には悪いことをした。俺達4人が家族に戻るチャンスを母さんと父さんにくれないか?」
お母さんと元父親はそう言って、真剣な目をこちらに向けてくる。
なんで、2人が再婚するのに私達の許可が必要なの?好きなんだったら勝手に再婚してよ。こっちは、ただでさえその話を聞くのが不愉快なのに。
それから、私は複雑な気持ちでにこっと笑った。
「いいよ、私も家族に戻りたい」
私の言葉を聞いたお母さん達は、すぐにポロポロと泣き出してしまい、「ありがとう」と頭を下げた。
それからはあっという間だった。再婚するのにはそんな時間はかからない。ただ、同棲も今後していこうと思っているから、準備は大変そうだったけど。
3週間が経った。
おおよそ、家の中の簡易的なリフォームが終わり、2人が住み始めたが、特に今までの生活と変化はなかった。
奏多のことこれ以上思っていても辛いままだろうな。私が言うのも何だけど、奏多のことしっかり諦めないと。私は奏多の姉なんだから。頭ではそう思っていても、私の心は諦めようとしなかった。
再婚したが、私は苗字を変えていなかった。苗字も同じなんて気持ち悪いから。
「げ、ちづー雨降ってきたよ?」
同じクラス、同じ部活の親友。坂本 夏樹と昼休みに話していると、外から雨音がしだした。
「え、ほんとじゃん。最悪。髪ボサボサになっちゃうよ」
「やだねー。朝は晴れてたのに」
「ほんと、やだわ。あ、夏樹傘ある?私、持ってくるの忘れた気がする」
「あー確か折りたたみがあった気がするんだけど…ちょっと待ってね」
「うん。ありがと」
夏樹とは高校に入ってから親友になった。クールで背の高い夏樹は男子だけで無く、女子も虜にするほど。実は、ファンクラブもあるみたい。
夏樹がリュックの中をごそごそと探している間、私は雨が降っている外をぼーっと眺めていた。はぁ、雨って匂いも嫌いなんだよね。2人が出て行ったのも雨の日だったし。
「あった!!2本あるからはい、どうぞ。それとも私と相合傘して帰るー?」
「えー…夏樹と相合傘?でも、帰る方向逆じゃん」
「確かに!!でも、滅多にないチャンスだよ?今ならお買い得でっせ。お嬢ちゃん」
なにそれー、あははと2人でくだらないことを言いながら、笑っていたが、
「ちづる、傘ある?俺ないんだけど」
たまたま同じクラスになってしまった奏多が私達に声をかけてきた。
「奏多。私も夏樹に傘、借りようと思ってて」
学校のみんなには私達が姉弟であることを隠してはいるが、奏多の距離感のせいで付き合っているのではと噂されることがかなり多い。たぶん、奏多は誰にでもこんな感じだから大丈夫とは思うけどね。
「じゃあ、俺と一緒に帰ろ。傘入れてよ」
「え?奏多走って帰ればいいじゃん。足、早いし」
「あ、あの。上原くん!!よ、よかったら私の傘、どうぞ!!ちづと私は2人で帰るので」
いつもクールな夏樹が若干取り乱しながら、折りたたみ傘を奏多に差し出していた。珍しい。こんなこともあるんだとこの時の私は呑気にそう思っていた。
「いいよ、坂本さん。俺、ちづると帰る方向同じだし。でも、結局坂本さんの傘か。ありがとう。坂本さん」
そんな夏樹の提案を断り、私と2人で帰ることを選択した奏多にちょっとだけ期待してしまい、顔が熱くなる。
私は顔が赤いことを誤魔化すように声を大きくして奏多に言った。
「勝手に決めないでよ。まあ別にいいけどさ。昇降口で待っててよ?」
「ありがと。じゃあ、また」
奏多はそのままいつものグループの方へ向かって行った。何で私はもうちょっと可愛い言い方できないんだろう。奏多のことになるとすぐに後悔してしまい、はぁっとため息をついてしまった。
「あぁ、ごめんね。夏樹。勝手に傘借りること決めちゃって…」
そう言いながら、夏樹の方を見て私は驚いた。彼女の表情が悲しそうだったから。
「夏樹?どうしたの?」
「…え、あ、いや、何が?」
「いや、夏樹がなんか悲しそうだったから」
「…何でもないよ。大丈夫」
「絶対嘘じゃん。私じゃダメかな?よかったら話してほしい」
私が言った瞬間、一瞬夏樹が複雑な表情を浮かべた気がしたけどまた、いつも通りの表情に戻った。
「じゃあ、今日の放課後。5分だけ、付き合って」
「うん、わかった」
夏樹の考えていることはわからなかったけど、なんとなく強い力を感じた。
そして4時間が経ち、放課後になった。
部活に行く人は部活に行き、家に帰る人は家に帰って行ったので教室は夏樹と私の2人っきりになる。
2人っきりになって5分くらい経ったが、夏樹は口を開かなかった。だから、我慢できずに私から声をかけた。
「夏樹?無理に言わなくて良いんだよ。今日が嫌なら別の日でも」
夏樹は、顔を上げて私の方を見ながらゆっくり言う。
「いや、言わせて。私ね」
夏樹は止まった。ほんの10秒ほど。そして、私はその10秒の間で嫌な予感がした。自分から言い出したくせに、聞きたくないという気持ちがどんどん溢れてくる。何で何だろう。
「私もね、上原くんのことが好きなんだ。ごめんね、ちづ」
あー、そう言うことか。ほんと、私の嫌な予感はことごとく的中する。
「え、なんで謝るの?」
震える声を頑張って抑えながら、落ち着いた声で夏樹に言う。
「だって、ちづると上原くんって付き合ってるんでしょ?親友の彼氏を好きになるなんて最低じゃん」
段々と涙声になる夏樹を見てられなくて、思わず私は夏樹をそっと抱きしめてしまった。
夏樹は、驚いた声で言った。
「ちづ?どうしたの?」
「何でもない。何でもないよ。ごめんね、夏樹の気持ちに気づかなくて。ずっと辛かったよね。大丈夫、私達付き合ってないから。はっきりしなくてごめんね」
やっぱり私の思いは誰かを必ず不幸にするんだな。早く諦めよう。私は奏多の姉なんだから。
結局、夏樹の相談だったのに私が励まされてしまった。
「ちづ、落ち着いた?私の気持ち、聞いてくれてありがとう。ちづの優しいところほんと大好きだよ」
「はい、傘。上原くん待ってるんでしょ?」
こんな状況でも、自分以外のことを優先して考えられる夏樹の方が優しくて強いよ。尊敬する。
「でも…」
「いいから、早く行って。ね?お願い」
夏樹の1人にしてほしいと言う無理矢理な笑顔を見てしまって思った。私には夏樹を笑顔にすることはできないんだな、と。
「わかった。ごめん、ありがとう」
そのまま、私は夏樹から傘を受け取り、振り返らずに昇降口まで走った。途中涙が溢れたけど、気にせずに走り続けた。
「ちづる、どうしたの?」
昇降口に着いてすぐ、奏多の声が耳元で聞こえた。いつの間にか昇降口に着いていたみたいだ。私は、奏多の声を聞こえてないふりしてそのまま、雨の降っている外へ飛び出した。傘をささずに。
「ちづる!!何やってんの!!」
奏多は、雨が降る中飛び出した私を追いかけてグイッと屋根のあるところまで無理矢理引っ張った。
「ほら、早くこっち来て!!大丈夫?何があったの?」
優しいな、奏多は。そして、温かい。でも、今は奏多と居たくない。早く、この場から離れたかった。
「大丈夫、大丈夫だから!!お願い、放っておいて」
「あ、あとこれ傘。あげる。先帰ってて。私、用事、できたから」
傘を無理矢理奏多に預けて、私はまた走って昇降口から人の滅多に来ない第二理科準備室へ逃げた。