ありがとうございました、と告げ、私は踵を返した。家に帰り、今日はいちばんに手紙を読んだ。



 咲良十和さま

 名前、水木絆っていいます。みずききずな。俺のことは、司書に聞けば、教えてくれると思います。
 あと、今更だけど手紙は一日にひとつずつ受け取ってもらえると嬉しいです。
 《V》が次の合言葉です。よろしくお願いします。



――なんでまた、司書さん?
それと、”水木絆”さんの名前。どこかで聞いたことがあるような気がするけれど、思い出せない。だけど、同じ学校の人だし、聞いたことがあるのは当然かもしれないとも思った。

そう思うと同時に、言葉では説明できないような、不思議な感覚、感情を感じた。正確には、下駄箱のふたを開けたときくらいから、私の脳内はずっとこうだったのかもしれない。

まるで、心臓が叫んでいるような。切なくて、胸がキュッと詰まるような感覚。もしかしたら、私の感情ではないのかもしれないとも思った。
以前、聞いたことがある。移植をすると、ふたり分の人格が心の中に入ることがあると。

声を聞くことは、できなかった。だけど、それが当たり前だとも思った。