鞄の中から家の鍵を取り出した時。
また――次があるの?
今になって、違和感の存在に気が付いた。
考えても今さらかと思い、私は鍵を鍵穴に通す。ぐるりとひねった。ひんやりと冷たいドアノブに手をかけ、回す。
”ただいまー”と、人が誰もいない家に挨拶をすると、お出迎えをされる。寄ってきたもふもふ。
「あいー! ただいまっ」
もふもふ――愛犬のあいは、私の胸へダイブした。私も抱きしめ返す。ふわふわの毛が頬にあたってくすぐったい。
仕事で忙しい両親が、ひとりでは寂しいだろうと飼うことを許してくれたのが、犬。あいだ。犬種はポメラニアン。ずっと抱きしめていたくなる、可愛い愛犬。あいがいるから、私は寂しくない。
少しあいと遊んで、洗濯を済ませたあと、私はスクバの中からラブレターを取り出した。なにが書いてあるんだろう。わくわくしながらシールを剥がし、開封する。
咲良十和さま
図書室行ってくれたり、読んでくれたり、生きていてくれたり、ありがとうございます。
咲良さんのおかげで、毎日楽しいです。今回伝えたかったのは、とにかく感謝ばっかりってこと。
それと、次の合言葉は、《I》です。名前は次の手紙で明かしたいと思います。
それから、今日も咲良さんが好きです。
――今日も好き、という言葉に頬が染まった。思わず赤く。
明日も図書室へ行けということかっ。照れ隠しもかねて、なんなんだ、とツッコむ。
それから、分からないことがまたひとつ生まれた。
生きていてくれてありがとうって、なに?
私が病気だったってことを、知っているってこと?
ますます分からない。誰なんだろう、差出人さん。
おそらく、病気のことを知っていて、なおかつ同じくらいの年齢の男の子だ。
夜、眠るにつく前。布団にもぐって思い当たる人を考えてみたものの、答えは出ない。