授業終了のチャイムが鳴ると、教室内はいっそうさわがしくなった。なにせ、お昼休みの時間だから。みんなお腹が空いているのだ。私もそう。
高校に入ってできた友達、未那と机をくっつけ、私たちはいつも通りお弁当の包みを開いた。今日のメニューはきんぴらごぼうだ。タッパーのふたをぱかっと開くと、鼻をかすめた甘辛い香り。食欲をそそる、いい匂い。
スクバの中から昨日もらったラブレターをそっと取り出し、「あのね」とさっそく切り出す。私が昨日の出来事を話すと、目を見開いた未那はがたんと音を立てて立ち上がった。
「ら、ラブレター!?」
「しーっ!大きい声で言わないでよ……」
慌てて未那をなだめる。私たちの会話には誰も気を向けていないようだったから大丈夫だとは思うけれど、もしもクラスメイトの中に差出人がいたらと思うと油断はできなかった。転ばぬ先の杖で、石橋を叩いて渡る。
「なんで、図書室に呼び出すんだと思う?」
「今や図書室は郵便局。じょーしきじゃん」
当然のことのように未那が言った。意味はまったく分からない。それに、”何言ってるの”っていうのはこっちのセリフだ。そういえば、未那はたまにほら吹きになったっけ。だから、厳重警戒が必要だった。
「もしかして、十和知らない? 最近、図書室が恋愛スポットになってるんだけど」
「……初耳です」
「なんかー、ラブレターの郵便局みたいな感じらしいよ。合言葉みたいのをあらかじめ決めておいて、それを司書さんに伝えると、相手が預けた手紙をもらえる、みたいな」
「何それっ。図書室利用者減ってきてるからって、そんなことしてるの?」
「らしい。ついでに、司書さんイケメンだって」
にやりと笑った未那に、いらぬ情報だという思いを込め、私は大げさにため息をついた。
「どうでもいいっ」
「……まあでも、行くでしょ?」
「……行くけどさー」
誰かに告白されたのは、はじめてだから。気になるじゃんっ。心の中で返事をした後、お弁当をしまい、机の横にかけた。
「というか、お昼きんぴらだけって、少なすぎない?」
「へへっ、実はダイエット中なんだ」
「たしかに、十和ちょっと太った?」
「ええ、やっぱり?」
口ではそう言いながら、まじかあと思った。ただの誤魔化しのつもりだったのに、本当にそう見えているとは。数字的には、平均よりも軽いはじなのに。ダイエットするべきか。
「いや、冗談だって。その体系で!? って感じだよ。それに、私の方がでぶいよ? ぽよってるよ!?」
「えええ、それはないないっ。というか、嘘か冗談か分からないの、やめてっ」
――病気のことは話していない。
そういうのはキャラじゃないし、そういうことで気遣いをされたくないから。それに、話してしまったら今のように仲良くしてもらえないかもしれない。
それはきっと、すごく怖いこと。