「オーバン」が開店して一年が経ち、此処で新たな問題が発生していた。
グランヴェル夫妻の件があって以降、そういうのを望む客足が途絶えることがなくなり、連日大盛況となったのである。
それは良いことではあるし、未だに嫌がらせをしに来る身の程知らずを叩き出すのも既に風物詩となってしまっているのだが、あまりに繁盛し過ぎて五席しかない店舗では捌き切れなくなったのだ。
だがリオノーラ一人で現行の料理の品質を保ち、そして捌き切るのは今の規模が精一杯である。偶に捌ききれなくなって妹が助けに入ってくれたりもするが。
ちなみにその妹さん――シェリーには、自分はエセルに拾われて娘同然に育ったということは既に伝えてある。
初めて伝えたときには「お母さんらしいわね」と言いつつやれやれと肩を竦め、ちょっと誇らしげにしていたそうな。
それはともかく、そんな繁盛して評判の良いリオノーラの元に、その料理を学びたいと弟子入りを志願する者まで現れ始めた。
店舗の規模を考えると、それはまず不可能である。シェリーが手伝えるのは、まだ成人前で小柄であり、そして実はリオノーラ並みに料理上手だから可能なのだ。
よって弟子入り志願のヒョロっちい、若干下心が透けて見えるようなにーちゃんどもでは邪魔になるし、そもそも物理的に不可能である。
そう言って断るのだが、諦めずに連日連夜店の前に貼り付いてしまっている有様で、何度も衛兵さんに連行されていた。
それが嫌になるくらい続いてしまい、その度に衛兵さん案件になっているため終いにはその衛兵が、
「こんなに頼んでいるんだから~」
とかあり得ないことを言い出しやがり、それにブチ切れたシェリーが自身の商会の担当国法士を通してその弟子志願者を付き纏い容疑で告発し、更にそんなことを言い出したがった衛兵どもも同時に告発したのである。
ちなみにこのときの担当国法士が、シェリーの商会担当の二級国法士から気付いたら特級国法士な森妖精に変更されるという怪奇現象が起きていた。
結果、苛烈な特級国法士な森妖精の手腕により、弟子志願の付き纏いは市街追放、そして口が滑っちゃった衛兵は懲戒処分にされたそうな。
付き纏いには同情の余地すらないが、衛兵さんの方はやり過ぎである。
そう判断したリオノーラは、その特級国法士な森妖精に衛兵さんの件は取り下げるように「お・ね・が・い」した。
その特級国法士な森妖精は、
「くぅ! なんということだ! 俺はシェリーの嬢ちゃん一筋なのに、迂闊にも愛を感じてしまった! 絹糸のように艶やかな髪と紅玉のように美しい瞳……ああ、愛が、愛を、愛に、溺れてしまいそうだ!!」
などと往来のど真ん中で喚き散らし、衛兵さんを呼ばれていたが。
ちなみにその変態っぽい森妖精な国法士さんは、何故かそのまま「オーバン」の担当国法士となった。
そう――なっちゃったのである。
そんなことがあり、顧客を満足させるためには店舗の拡張をするべきかを真剣に検討し始めるリオノーラであった。
結果として、資金が潤沢にあり顧客もそれを望んでいたため、商業区の片隅から大通り沿いへと店舗を移し、これで名実ともに誰からも文句の付けようのない「レストラン」として営業を再開したのである。
そして――その開業当初の従業員の中に、イーロ・ネヴァライネンは支配人として名を連ねていた。
元々彼は料理人としてとあるレストランで働いていたのだが、知識はあってもその技術が追い付かず、限界を感じて配膳係となったのである。
本来ならばそれで腐ってしまうことも多い配置換えであったのだが、黙々と調理をしているより客と相対している方が性に合ったのであろう彼が、そこから支配人までのし上がった。
もっとも、鼻に付く言動や態度で敵も多かったが。
そんな彼が「オーバン」に入職したとき、周囲のスタッフがあまりに稚拙であるため絶句してしまった。
それはリオノーラも感じており、だが急にそれとして動ける筈もないと半ば達観しており、客に実害がないのであれば長い目で見ていこうと、プレオープンのときはのんびりと考えていた。
しかしそんな思惑を打ち壊すように、開店当初から客の列が長蛇と化し、現場は早速大混乱となったのである。
それ見た事かとほくそ笑みながら、一六歳の小娘にはこれを収束させる能力はないと高を括ってイーロは傍観を決め込んでいた。
だがリオノーラは年齢通りの小娘ではない。
調理の合間を縫いながら従業員へ檄と指示を飛ばし、だが励まし褒めることも忘れずに、次々と客を捌いて行った。
挙句傍観を決め込んでいたイーロへも指示を飛ばし、これは働いていないのが見えたためワザとであるが、それをする暇すらない状況へ追い込んだのである。
そんな大混乱が暫く続き、気付いたらリオノーラと共に呼吸をするかのように自然に指示を出し始めている白金色の髪の少女とか、的確にホールを動いて次々と配膳と下膳処理をしている茶系金髪のヒト種の知的美人な娘とか、クレームを付ける迷惑客を雰囲気と殺気で封殺する濡烏色の髪の艶っぽい美人な鬼人族とか、ビックリするくらいな速度で食器を洗って鏡面のように磨き上げている可愛い系美人の土妖精の娘とか、とにかく従業員ではないスタッフが縦横無尽に動き回り、結局は食材が尽きてその日の営業は終了となった。
初日からそんな大混乱であったため、早速今後の営業について検討する必要があるとリオノーラではなく白金色の髪の娘が言い出し、更に社員教育がなってないとリオノーラを叱りつけた。
まず営業をに関して。
本日はプレオープンだという体にして、今後は完全予約制として事前にメニューも決めて貰い、客の入場を制限し、且つ食材の過不足を無くするようにする。そうすることで客自体もゆっくり寛ぎ料理を楽しめるだろうし、従業員も混乱することは無くなるだろう。
但し予約は最長一週間前からしか取れないようにして、数ヶ月数年待ちなどという先の見えない予約はしないことにする。
そしてメニューは遅くとも三日前までに決めて貰う。これは食材によって取り寄せに時間が掛かるものもあるからだ。
もっとも、なにが良いのかが判らない場合は好き嫌いや避けて欲しい食材だけでも伝えて貰うように、重ねて訊くことも忘れないようにする。
それと酒類の提供は最小限にして、客が悪酔いしないようにした。
「酒が飲みたければ、酒場に行って勝手に潰れてろ」
その少女は、なんか凄ーく憎々しくそう吐き捨てた。どうやら酒に個人的恨みがあるらしい。身内に酔っ払いなロクデナシでもいるのだろうかと、なんとなーく従業員達は考えたそうな。
でもこの少女って確か、リンゴ酒を取り扱っている商会のお嬢様じゃなかったっけ?
とも考えていたのだが……なにかに思い当たり、「あぁ……」と察したが祟りがありそうなので沈黙を守ろうと決めたそうである。
そんな感じで、何故かその少女が主導権をとって色々提案し、それが結構理に叶っていたためにそのまま決定となった――
――のだが、実は続きがあり、従業員があまりに色々未熟であるため、そこから一週間掛けて狂化……じゃなくて強化訓練をすることになった。
講師は勿論言い出しっぺの少女――シェリー・アップルジャックであり、補助にヒト種のシャーロット・エフィンジャー、鬼人族のレスリー・レンズリーが付き、そしてオーナーシェフであるリオノーラはというと、土妖精のメイ・スコールズと一緒にみんなの食事を用意する係に任命された。オーナーなのに。
「整列!」
「はい!」
「これより接客と調理に関する研修と実地講義を行う! だがその前に、貴方達に伝えるべきことがある! 心して聞くように!」
「はい!」
「貴方達は余りに未熟である! そして心構えもなっていない! こんな有様で飲食店で働こうなど笑止千万! 身の程を知れ!」
「はい!」
「だがそれでも此処にいる以上、未熟であろうとなんだろうと否応なく現場に出なくてはならない! そして客にとってそれは関係ない! それを理解するように!」
「はい!」
「自覚しなさい! 貴方達一人ひとりがこの『オーバン』であることを!」
「はい!」
「これより、貴方達全てが誇りある『オーバン』となるように研修と訓練を開始する!」
「はい!」
「作戦開始!」
「仰せの侭に!」
そうやって「オーバン」の従業員達へ接客や調理技術の向上を行い、更に、のーんびりしているオーナーシェフに危機感を植え付けるために、シェリーによるスパルタ式研修が行われたのであった。
「……なんか何処かで見た光景だし」
「うん、それボクも思ったよん。なんかシェリーちゃんって誰かさんに似てるのねん」
「ほんざんす。あちきの間夫を思い出すでありんす。セラフィーナはんが一夫一妻に拘る必要ござりんせんとおっせいしたんで、あちきは主さんが来るのが待ち遠しいでありんす」
「ああ、レスリんが恋する乙女になっちゃってるよ……どうするのコレ? というか『オーバン』ってわたしのお店だよね? なんでシェリーが仕切ってんの?」
「それはリオが不甲斐ないからだし」
「そうなのねん。セシルくんが見たら激怒するのねん」
「主さんがあれだけ口酸っぱくおっせいしたことが、何一つ出来ていないでありんす」
「思い出しただけでも怖いからヤメテ!」
気合を入れてから研修を始め、そして厳しくそうされているのにちょっと嬉しそうにしている、なにかの扉を開いちゃったらしいその従業員どもを尻目に、久し振りにそんな会話を始めるリオノーラと三人娘。
だがシレっと我関せずを決め込んでいるそのリオノーラを、
「え? なに? あ、ちょっと待ってわたしもなの? でもほらわたしは一応オーナーだから……」
「……なにを意味不明なことを言っているのかしら? そもそも貴女の目測が甘いからこんな事態になっているんでしょう。グダグダ言訳せずに参加しなさい、お・ね・え・さ・ん」
笑顔一つなく、そして表情すら一切無くなっているシェリーが、リオノーラの襟首をガッチリ掴んで引き摺って行く。
とても一二歳とは思えないほどしっかりしていた。
そしてそんな様を、本来であったならば自分がする筈だったと歯噛みしながら、イーロは恨めしそうに睨んでいた。
グランヴェル夫妻の件があって以降、そういうのを望む客足が途絶えることがなくなり、連日大盛況となったのである。
それは良いことではあるし、未だに嫌がらせをしに来る身の程知らずを叩き出すのも既に風物詩となってしまっているのだが、あまりに繁盛し過ぎて五席しかない店舗では捌き切れなくなったのだ。
だがリオノーラ一人で現行の料理の品質を保ち、そして捌き切るのは今の規模が精一杯である。偶に捌ききれなくなって妹が助けに入ってくれたりもするが。
ちなみにその妹さん――シェリーには、自分はエセルに拾われて娘同然に育ったということは既に伝えてある。
初めて伝えたときには「お母さんらしいわね」と言いつつやれやれと肩を竦め、ちょっと誇らしげにしていたそうな。
それはともかく、そんな繁盛して評判の良いリオノーラの元に、その料理を学びたいと弟子入りを志願する者まで現れ始めた。
店舗の規模を考えると、それはまず不可能である。シェリーが手伝えるのは、まだ成人前で小柄であり、そして実はリオノーラ並みに料理上手だから可能なのだ。
よって弟子入り志願のヒョロっちい、若干下心が透けて見えるようなにーちゃんどもでは邪魔になるし、そもそも物理的に不可能である。
そう言って断るのだが、諦めずに連日連夜店の前に貼り付いてしまっている有様で、何度も衛兵さんに連行されていた。
それが嫌になるくらい続いてしまい、その度に衛兵さん案件になっているため終いにはその衛兵が、
「こんなに頼んでいるんだから~」
とかあり得ないことを言い出しやがり、それにブチ切れたシェリーが自身の商会の担当国法士を通してその弟子志願者を付き纏い容疑で告発し、更にそんなことを言い出したがった衛兵どもも同時に告発したのである。
ちなみにこのときの担当国法士が、シェリーの商会担当の二級国法士から気付いたら特級国法士な森妖精に変更されるという怪奇現象が起きていた。
結果、苛烈な特級国法士な森妖精の手腕により、弟子志願の付き纏いは市街追放、そして口が滑っちゃった衛兵は懲戒処分にされたそうな。
付き纏いには同情の余地すらないが、衛兵さんの方はやり過ぎである。
そう判断したリオノーラは、その特級国法士な森妖精に衛兵さんの件は取り下げるように「お・ね・が・い」した。
その特級国法士な森妖精は、
「くぅ! なんということだ! 俺はシェリーの嬢ちゃん一筋なのに、迂闊にも愛を感じてしまった! 絹糸のように艶やかな髪と紅玉のように美しい瞳……ああ、愛が、愛を、愛に、溺れてしまいそうだ!!」
などと往来のど真ん中で喚き散らし、衛兵さんを呼ばれていたが。
ちなみにその変態っぽい森妖精な国法士さんは、何故かそのまま「オーバン」の担当国法士となった。
そう――なっちゃったのである。
そんなことがあり、顧客を満足させるためには店舗の拡張をするべきかを真剣に検討し始めるリオノーラであった。
結果として、資金が潤沢にあり顧客もそれを望んでいたため、商業区の片隅から大通り沿いへと店舗を移し、これで名実ともに誰からも文句の付けようのない「レストラン」として営業を再開したのである。
そして――その開業当初の従業員の中に、イーロ・ネヴァライネンは支配人として名を連ねていた。
元々彼は料理人としてとあるレストランで働いていたのだが、知識はあってもその技術が追い付かず、限界を感じて配膳係となったのである。
本来ならばそれで腐ってしまうことも多い配置換えであったのだが、黙々と調理をしているより客と相対している方が性に合ったのであろう彼が、そこから支配人までのし上がった。
もっとも、鼻に付く言動や態度で敵も多かったが。
そんな彼が「オーバン」に入職したとき、周囲のスタッフがあまりに稚拙であるため絶句してしまった。
それはリオノーラも感じており、だが急にそれとして動ける筈もないと半ば達観しており、客に実害がないのであれば長い目で見ていこうと、プレオープンのときはのんびりと考えていた。
しかしそんな思惑を打ち壊すように、開店当初から客の列が長蛇と化し、現場は早速大混乱となったのである。
それ見た事かとほくそ笑みながら、一六歳の小娘にはこれを収束させる能力はないと高を括ってイーロは傍観を決め込んでいた。
だがリオノーラは年齢通りの小娘ではない。
調理の合間を縫いながら従業員へ檄と指示を飛ばし、だが励まし褒めることも忘れずに、次々と客を捌いて行った。
挙句傍観を決め込んでいたイーロへも指示を飛ばし、これは働いていないのが見えたためワザとであるが、それをする暇すらない状況へ追い込んだのである。
そんな大混乱が暫く続き、気付いたらリオノーラと共に呼吸をするかのように自然に指示を出し始めている白金色の髪の少女とか、的確にホールを動いて次々と配膳と下膳処理をしている茶系金髪のヒト種の知的美人な娘とか、クレームを付ける迷惑客を雰囲気と殺気で封殺する濡烏色の髪の艶っぽい美人な鬼人族とか、ビックリするくらいな速度で食器を洗って鏡面のように磨き上げている可愛い系美人の土妖精の娘とか、とにかく従業員ではないスタッフが縦横無尽に動き回り、結局は食材が尽きてその日の営業は終了となった。
初日からそんな大混乱であったため、早速今後の営業について検討する必要があるとリオノーラではなく白金色の髪の娘が言い出し、更に社員教育がなってないとリオノーラを叱りつけた。
まず営業をに関して。
本日はプレオープンだという体にして、今後は完全予約制として事前にメニューも決めて貰い、客の入場を制限し、且つ食材の過不足を無くするようにする。そうすることで客自体もゆっくり寛ぎ料理を楽しめるだろうし、従業員も混乱することは無くなるだろう。
但し予約は最長一週間前からしか取れないようにして、数ヶ月数年待ちなどという先の見えない予約はしないことにする。
そしてメニューは遅くとも三日前までに決めて貰う。これは食材によって取り寄せに時間が掛かるものもあるからだ。
もっとも、なにが良いのかが判らない場合は好き嫌いや避けて欲しい食材だけでも伝えて貰うように、重ねて訊くことも忘れないようにする。
それと酒類の提供は最小限にして、客が悪酔いしないようにした。
「酒が飲みたければ、酒場に行って勝手に潰れてろ」
その少女は、なんか凄ーく憎々しくそう吐き捨てた。どうやら酒に個人的恨みがあるらしい。身内に酔っ払いなロクデナシでもいるのだろうかと、なんとなーく従業員達は考えたそうな。
でもこの少女って確か、リンゴ酒を取り扱っている商会のお嬢様じゃなかったっけ?
とも考えていたのだが……なにかに思い当たり、「あぁ……」と察したが祟りがありそうなので沈黙を守ろうと決めたそうである。
そんな感じで、何故かその少女が主導権をとって色々提案し、それが結構理に叶っていたためにそのまま決定となった――
――のだが、実は続きがあり、従業員があまりに色々未熟であるため、そこから一週間掛けて狂化……じゃなくて強化訓練をすることになった。
講師は勿論言い出しっぺの少女――シェリー・アップルジャックであり、補助にヒト種のシャーロット・エフィンジャー、鬼人族のレスリー・レンズリーが付き、そしてオーナーシェフであるリオノーラはというと、土妖精のメイ・スコールズと一緒にみんなの食事を用意する係に任命された。オーナーなのに。
「整列!」
「はい!」
「これより接客と調理に関する研修と実地講義を行う! だがその前に、貴方達に伝えるべきことがある! 心して聞くように!」
「はい!」
「貴方達は余りに未熟である! そして心構えもなっていない! こんな有様で飲食店で働こうなど笑止千万! 身の程を知れ!」
「はい!」
「だがそれでも此処にいる以上、未熟であろうとなんだろうと否応なく現場に出なくてはならない! そして客にとってそれは関係ない! それを理解するように!」
「はい!」
「自覚しなさい! 貴方達一人ひとりがこの『オーバン』であることを!」
「はい!」
「これより、貴方達全てが誇りある『オーバン』となるように研修と訓練を開始する!」
「はい!」
「作戦開始!」
「仰せの侭に!」
そうやって「オーバン」の従業員達へ接客や調理技術の向上を行い、更に、のーんびりしているオーナーシェフに危機感を植え付けるために、シェリーによるスパルタ式研修が行われたのであった。
「……なんか何処かで見た光景だし」
「うん、それボクも思ったよん。なんかシェリーちゃんって誰かさんに似てるのねん」
「ほんざんす。あちきの間夫を思い出すでありんす。セラフィーナはんが一夫一妻に拘る必要ござりんせんとおっせいしたんで、あちきは主さんが来るのが待ち遠しいでありんす」
「ああ、レスリんが恋する乙女になっちゃってるよ……どうするのコレ? というか『オーバン』ってわたしのお店だよね? なんでシェリーが仕切ってんの?」
「それはリオが不甲斐ないからだし」
「そうなのねん。セシルくんが見たら激怒するのねん」
「主さんがあれだけ口酸っぱくおっせいしたことが、何一つ出来ていないでありんす」
「思い出しただけでも怖いからヤメテ!」
気合を入れてから研修を始め、そして厳しくそうされているのにちょっと嬉しそうにしている、なにかの扉を開いちゃったらしいその従業員どもを尻目に、久し振りにそんな会話を始めるリオノーラと三人娘。
だがシレっと我関せずを決め込んでいるそのリオノーラを、
「え? なに? あ、ちょっと待ってわたしもなの? でもほらわたしは一応オーナーだから……」
「……なにを意味不明なことを言っているのかしら? そもそも貴女の目測が甘いからこんな事態になっているんでしょう。グダグダ言訳せずに参加しなさい、お・ね・え・さ・ん」
笑顔一つなく、そして表情すら一切無くなっているシェリーが、リオノーラの襟首をガッチリ掴んで引き摺って行く。
とても一二歳とは思えないほどしっかりしていた。
そしてそんな様を、本来であったならば自分がする筈だったと歯噛みしながら、イーロは恨めしそうに睨んでいた。