「えーと、リーのことはどうでも良いとして……」
咳払いをして先程の色々を無かったことにするシェリー。だがそれがちょっとエロかったため、しなければ良いのにセシルがちょっと反応してしまった。
そしてそれを敏感に察知したシェリーが、胡乱な目を向ける。
「ごめんなさいねシェリー。セシルは基本的にドスケベだから気にしないで。後でちゃんと絞っておくから」
「……まぁ、私の咳払いがエロいってよく言われるからそれはもう諦めてるけど。それより貴方、さっき私のパンツをガン見してたでしょう」
バレていた! シェリーの指摘に、心胆を寒からしめられるセシル。だが表情には一切出さず、
「いや? 俺は〝四重詠唱〟とその後の魔法発動速度に感心していただけだが? それ以前に変態に突撃されそうになって、しかも両手が塞がっているからちょっとした覚悟を決めていたところだ。あ、これはマーチャレス農場が自信を持って販売している商品詰合ですので、どうぞお納め下さい。個人的なお勧めはブルーベリーのフレーバード・ティーです」
色々誤魔化し、最終的に物で全てを無かったことにしようとするセシル。その若干必死な姿を、ちょっと白けたように見ているクローディアの視線が痛いが気にしない。
更にシェリーの背後にいる、背の高い栗毛を緩く一本の三つ編みにしているヒト種の男が、突き刺さるような視線を向けていた。
しかもその気配が、先程の変態――じゃなくて変態や灼熱の吐息を漏らしていたJJ、そしてベッドを片手で持ち歩くエイリーンよりもよほど人外である。
一体なにをどうすれば、それほどの領域に踏み入れられるのか。ちょっと興味があるセシルだったが、少し考え、人は辞めたくないと判断してそれを振り払った。
「あらどうもご丁寧に。まぁ中身見られたワケじゃないから別に構わないし、これでチャラにしてあげるわ……大丈夫だから殺気立たないのザック」
「その辺は大丈夫よシェリー。セシルはパンツに興味があるわけじゃなくて、パンツを脱がすのが好きなだけだから。ああ、でも脱がす前にスーハーするわね」
「あら、その辺はザックと一緒じゃない。うちの旦那もスーハー好きよ。まぁ男ってみんな変態だから、スーハーされても悩まなくて良いのよコーデリア」
突然声を掛けられてビクッとする、茶系金髪と青い瞳の、メガネがよく似合う三つ編みの元修道女でJJの恋人のコーデリアが、チラッとJJへと目を向けてから耳まで真っ赤になって俯いている。
相変わらず可愛いなぁ。
そんなオヤジ的発想をしてニヤ笑いをするシェリー。そしてクローディアもそれを見て和んでいた。セシルは興味なさそうであったが。
そしてエイリーンにスーハーを暴露されたザックは、全力で知らん顔をして雑誌を観ている。
ちなみに雑誌を逆さにするなどというベタな失敗はしていない。開いているページがアダルトな記事になっちゃっているだけだ。
「そんな男はみんな変態だって判り切っていることはどうでも良いわ。ごめんなさいねセシル、ディア、今ちょっと仕事の話しをしているから待ってて。えーとJJ、リオが持って来た帳簿ってどうなの?」
「ええ、とにかく酷いです。とても『店舗経営簿記会計士』の資格持ちとは思えません」
「ううううう~……そんなはっきり言わなくても……わたしだって頑張ってたんだよぉ」
そんなことを言い、肩を落として乱雑に山積している帳簿に突っ伏す、物凄ーく見覚えのある白髪を目にして首を傾げるセシル。クローディアも頷いていた。
「失礼、ちょっと拝見します」
言うが早いか、頭を抱えて半眼で帳簿を眺めているJJの傍にある、未確認の帳簿を拾い上げて目を通すセシル。一応はそれなりに区分してあるようなのだが、ただそれだけであった。
区分して挙げるだけなのは、整理とは言わない。
「え? あ、ちょっとなにするのよ! これはわたしとアップルジャック商会の……問題だから、ええと、ちょおっと口は出さないでくれると嬉しいかなぁセシルん……」
威勢の良い言葉が尻すぼみで削がれて行き、最終的にはなんとか聞き取れるくらいまでになる。
そんな白髪赤目な色素異常症の、今ではすっかり立派な……かどうかは怪しいが、とにかく淑女になったリオノーラを一瞥して、だがすぐに帳簿に目を落とすセシル。
そして深い溜息を吐いてから振り返ると、シェリー達へ深く頭を下げた。
「不肖の教え子がご迷惑をお掛けしているようで、大変申し訳ありません。つきましてはこの不始末、是非私にも参加させて頂きたいのですが、ご許可を頂けないでしょうか」
慇懃に礼をし、キョトン顔をしているリオノーラの頭を掴んで強制的に礼をさせる。
「止めてよセシルん。これはセシルんには関係ないでしょ。大丈夫大丈夫、なんとかなるから……」
「なんともなってないだろうが! 原価率が60%ってバカじゃないのか!」
「……そんな怒らなくても……」
柳眉をハの字にして、今にも泣きそうに俯くリオノーラ。だがそうしたところで、怯むセシルではない。
「見たところレストランの形態は、ゆっくりコース料理を楽しむといったところだろう。だったらせめて35%に抑えろよ。理想は25%から30%だな。どうしても60%を続けたいのなら、そうだな、店内をテーブルのみにして椅子を置かないで、立食形式にすれば回転も良くなって薄利多売が出来る筈だ。あとこの形式にするんだったら、酒類は置いちゃダメだ。立食でも酒が入ると長居されるからな」
帳簿をペラペラ捲り、JJが差し出す付箋を貼って問題のあるところをピックアップする。そしてそれをJJも確認し、軽く頷き帳簿の山を半分くらいセシルの方へ移動させた。
たったそれだけの遣り取りなのに、傍観を決め込んでいたその場にいる全員が感嘆の溜息を漏らす。
そう、JJは仕事がしっかりと出来ると自身が認める者にしか、それを託さない。
まぁそんなことなどセシルは知る由もないが。
「へぇ、なるほど。確かにそれだと薄利多売が出来るわね。だけどその形態が世に受け入れられるかしら。ゆっくり食べたいのに出来ないって評判が落ちるだけじゃないの?」
「そうなるかも知れないけど、でも考えてみて欲しい。高級レストランのコース料理って、一体どれくらいの人々に需要があるんだ? こういう言い方は卑屈かも知れないけれど、所謂『コース』って高給取り――一部の富裕層の専売特許だと考える人が殆どだ。少なくとも一般的な並みの生活をしている人々にとって『コース』は、極端に言えば『一生に一度は食べてみたい』程度のものでしかない」
「うん、そうね。それに『コース』って格式ばってて面倒って言う人もいるし。それと、さっきの立食レストランの利点は?」
「格式ばっていないところ。勿論立食だからコースは無理だ。だが一品ずつ好きな品を注文して、自分好みのコースっぽい選択も可能だし、なにより立っていることで食べる時間が短縮された気分になる。急いでいる人は案外利用するんじゃないか? 前提として、より早く提供する必要があるが」
リオノーラに話していたつもりが、いつの間にか相手がシェリーになっているのに気付いていたが、自分が言ったことにすぐ反応してくれるのが楽しくなって来るセシル。
そしてシェリーも、自分にはない発想を出して来るセシルとの会話が楽しくなったらしい。
「あら、セシル様と対等にお話し出来る方が私やディア意外にいたんですね」
二階からレオンティーヌとラーラを伴って降りて来て、なにやら楽しそうな会話を耳にしそんな感想を零すデレシア。横目でクローディアを見ると、面白くなさそうな顔をしている。
これは、やっと自分の気持ちに素直になるのかな? そう思っていたら、
「セシルだけズルい。私もシェリーと楽しくお話ししたい」
セシルの方に嫉妬していただけだった。
思わず顔を押さえ、深い溜息を吐くデシレア。相変わらず、一筋縄にはいかないようである。
咳払いをして先程の色々を無かったことにするシェリー。だがそれがちょっとエロかったため、しなければ良いのにセシルがちょっと反応してしまった。
そしてそれを敏感に察知したシェリーが、胡乱な目を向ける。
「ごめんなさいねシェリー。セシルは基本的にドスケベだから気にしないで。後でちゃんと絞っておくから」
「……まぁ、私の咳払いがエロいってよく言われるからそれはもう諦めてるけど。それより貴方、さっき私のパンツをガン見してたでしょう」
バレていた! シェリーの指摘に、心胆を寒からしめられるセシル。だが表情には一切出さず、
「いや? 俺は〝四重詠唱〟とその後の魔法発動速度に感心していただけだが? それ以前に変態に突撃されそうになって、しかも両手が塞がっているからちょっとした覚悟を決めていたところだ。あ、これはマーチャレス農場が自信を持って販売している商品詰合ですので、どうぞお納め下さい。個人的なお勧めはブルーベリーのフレーバード・ティーです」
色々誤魔化し、最終的に物で全てを無かったことにしようとするセシル。その若干必死な姿を、ちょっと白けたように見ているクローディアの視線が痛いが気にしない。
更にシェリーの背後にいる、背の高い栗毛を緩く一本の三つ編みにしているヒト種の男が、突き刺さるような視線を向けていた。
しかもその気配が、先程の変態――じゃなくて変態や灼熱の吐息を漏らしていたJJ、そしてベッドを片手で持ち歩くエイリーンよりもよほど人外である。
一体なにをどうすれば、それほどの領域に踏み入れられるのか。ちょっと興味があるセシルだったが、少し考え、人は辞めたくないと判断してそれを振り払った。
「あらどうもご丁寧に。まぁ中身見られたワケじゃないから別に構わないし、これでチャラにしてあげるわ……大丈夫だから殺気立たないのザック」
「その辺は大丈夫よシェリー。セシルはパンツに興味があるわけじゃなくて、パンツを脱がすのが好きなだけだから。ああ、でも脱がす前にスーハーするわね」
「あら、その辺はザックと一緒じゃない。うちの旦那もスーハー好きよ。まぁ男ってみんな変態だから、スーハーされても悩まなくて良いのよコーデリア」
突然声を掛けられてビクッとする、茶系金髪と青い瞳の、メガネがよく似合う三つ編みの元修道女でJJの恋人のコーデリアが、チラッとJJへと目を向けてから耳まで真っ赤になって俯いている。
相変わらず可愛いなぁ。
そんなオヤジ的発想をしてニヤ笑いをするシェリー。そしてクローディアもそれを見て和んでいた。セシルは興味なさそうであったが。
そしてエイリーンにスーハーを暴露されたザックは、全力で知らん顔をして雑誌を観ている。
ちなみに雑誌を逆さにするなどというベタな失敗はしていない。開いているページがアダルトな記事になっちゃっているだけだ。
「そんな男はみんな変態だって判り切っていることはどうでも良いわ。ごめんなさいねセシル、ディア、今ちょっと仕事の話しをしているから待ってて。えーとJJ、リオが持って来た帳簿ってどうなの?」
「ええ、とにかく酷いです。とても『店舗経営簿記会計士』の資格持ちとは思えません」
「ううううう~……そんなはっきり言わなくても……わたしだって頑張ってたんだよぉ」
そんなことを言い、肩を落として乱雑に山積している帳簿に突っ伏す、物凄ーく見覚えのある白髪を目にして首を傾げるセシル。クローディアも頷いていた。
「失礼、ちょっと拝見します」
言うが早いか、頭を抱えて半眼で帳簿を眺めているJJの傍にある、未確認の帳簿を拾い上げて目を通すセシル。一応はそれなりに区分してあるようなのだが、ただそれだけであった。
区分して挙げるだけなのは、整理とは言わない。
「え? あ、ちょっとなにするのよ! これはわたしとアップルジャック商会の……問題だから、ええと、ちょおっと口は出さないでくれると嬉しいかなぁセシルん……」
威勢の良い言葉が尻すぼみで削がれて行き、最終的にはなんとか聞き取れるくらいまでになる。
そんな白髪赤目な色素異常症の、今ではすっかり立派な……かどうかは怪しいが、とにかく淑女になったリオノーラを一瞥して、だがすぐに帳簿に目を落とすセシル。
そして深い溜息を吐いてから振り返ると、シェリー達へ深く頭を下げた。
「不肖の教え子がご迷惑をお掛けしているようで、大変申し訳ありません。つきましてはこの不始末、是非私にも参加させて頂きたいのですが、ご許可を頂けないでしょうか」
慇懃に礼をし、キョトン顔をしているリオノーラの頭を掴んで強制的に礼をさせる。
「止めてよセシルん。これはセシルんには関係ないでしょ。大丈夫大丈夫、なんとかなるから……」
「なんともなってないだろうが! 原価率が60%ってバカじゃないのか!」
「……そんな怒らなくても……」
柳眉をハの字にして、今にも泣きそうに俯くリオノーラ。だがそうしたところで、怯むセシルではない。
「見たところレストランの形態は、ゆっくりコース料理を楽しむといったところだろう。だったらせめて35%に抑えろよ。理想は25%から30%だな。どうしても60%を続けたいのなら、そうだな、店内をテーブルのみにして椅子を置かないで、立食形式にすれば回転も良くなって薄利多売が出来る筈だ。あとこの形式にするんだったら、酒類は置いちゃダメだ。立食でも酒が入ると長居されるからな」
帳簿をペラペラ捲り、JJが差し出す付箋を貼って問題のあるところをピックアップする。そしてそれをJJも確認し、軽く頷き帳簿の山を半分くらいセシルの方へ移動させた。
たったそれだけの遣り取りなのに、傍観を決め込んでいたその場にいる全員が感嘆の溜息を漏らす。
そう、JJは仕事がしっかりと出来ると自身が認める者にしか、それを託さない。
まぁそんなことなどセシルは知る由もないが。
「へぇ、なるほど。確かにそれだと薄利多売が出来るわね。だけどその形態が世に受け入れられるかしら。ゆっくり食べたいのに出来ないって評判が落ちるだけじゃないの?」
「そうなるかも知れないけど、でも考えてみて欲しい。高級レストランのコース料理って、一体どれくらいの人々に需要があるんだ? こういう言い方は卑屈かも知れないけれど、所謂『コース』って高給取り――一部の富裕層の専売特許だと考える人が殆どだ。少なくとも一般的な並みの生活をしている人々にとって『コース』は、極端に言えば『一生に一度は食べてみたい』程度のものでしかない」
「うん、そうね。それに『コース』って格式ばってて面倒って言う人もいるし。それと、さっきの立食レストランの利点は?」
「格式ばっていないところ。勿論立食だからコースは無理だ。だが一品ずつ好きな品を注文して、自分好みのコースっぽい選択も可能だし、なにより立っていることで食べる時間が短縮された気分になる。急いでいる人は案外利用するんじゃないか? 前提として、より早く提供する必要があるが」
リオノーラに話していたつもりが、いつの間にか相手がシェリーになっているのに気付いていたが、自分が言ったことにすぐ反応してくれるのが楽しくなって来るセシル。
そしてシェリーも、自分にはない発想を出して来るセシルとの会話が楽しくなったらしい。
「あら、セシル様と対等にお話し出来る方が私やディア意外にいたんですね」
二階からレオンティーヌとラーラを伴って降りて来て、なにやら楽しそうな会話を耳にしそんな感想を零すデレシア。横目でクローディアを見ると、面白くなさそうな顔をしている。
これは、やっと自分の気持ちに素直になるのかな? そう思っていたら、
「セシルだけズルい。私もシェリーと楽しくお話ししたい」
セシルの方に嫉妬していただけだった。
思わず顔を押さえ、深い溜息を吐くデシレア。相変わらず、一筋縄にはいかないようである。